研究課題
タンチョウの生息環境からの化学物質曝露は、卵殻薄化や孵化率の低下を引き起こす可能性があり、化学物質の曝露状況の把握は保護活動を行う上で重要である。本研究では、1989年より25年間にわたり釧路市動物園にて保存されているタンチョウのへい死個体の臓器・組織(胸筋、肺、肝臓等)に蓄積されている残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants; POPs)や多環芳香族炭化水素類(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons; PAHs)を定量し、曝露量や毒性発現の可能性を推定することを目的とする。平成28年度は、列車衝突や車両衝突、電線衝突など突発的な原因によってへい死したタンチョウの成鳥野生個体のうち、測定可能であった47個体(2002~2016年に回収)について、筋肉組織中のPOPs濃度を測定した。すべての試料からヘキサクロロベンゼン(HCB)、ジクロロジフェニルトリクロロエタンとその代謝物(DDT類)、クロルデン類、ヘキサクロロシクロヘキサン類、PCB類、ポリブロモジフェニルエーテル(PBDE)類を同定・定量し結果の解析を行った。PCB類の濃度が最も高かったが、他の鳥類の濃度より低く、急性影響が現れるレベルではなかった。また測定物質濃度の関係からPBDE類は他のPOPsとは曝露経路が異なることが分かった。一方で、胆汁に排泄されると予測されるPAH代謝物として水酸化PAHの分析法を開発するため、胆汁試料の前処理法を確立した。精製したタンチョウの胆汁試料を液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)により分析し、9種のOHPAHを検出することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度も継続してタンチョウの筋肉組織中のPOPsを定量し、測定可能な試料のすべて測定を終了した。得られた定量値についてデータ解析を行い、POPsによって曝露経路が大きく異なることが明確になった。成果をまとめた論文はすでに投稿中であり、当初の計画以上に順調に進展している。また、PAH代謝物であるOHPAHのLC-MS/MSによる高感度検出に加え、固相抽出等を用いた胆汁試料の適切な前処理法が完成し、実際にタンチョウの胆汁試料からOHPAHを検出することに成功した。
平成28年度に測定可能な筋肉組織の全試料についてPOPsの定量を完了し、データ解析を行い論文として投稿中であるが、動物園に新たな収容個体がある場合には継続してPOPsの分析を行う。また、筋肉中濃度の違い等から曝露経路が異なると推定された化合物について、関連する環境因子について推定を行う。また、胆汁中OHPAHの分析については、すべての試料についての定量を終了し、データ解析を行う予定である。胆汁の前処理を完成させ、POPsを測定した個体の胆汁の定量を実施する。胆汁排泄される代謝物の抱合体の種類や割合も検証してタンチョウにおけるPAH代謝の実態を解明する。PAH曝露に関しても、POPsと同様に各個体情報や環境因子との関係性を考察する。
分析に使用するタンチョウの組織試料は、列車衝突や車両衝突、電線衝突など突発的な原因によってへい死して釧路市動物園に回収されたタンチョウの成鳥野生個体を用いるため、年度によって死亡する個体数が異なる。平成28年度は、死亡個体数が少なく、動物園の研究協力者が試料用の組織等を採取することで対応可能であったため、釧路に派遣する人員が必要なかった。また、胆汁分析が年度末に本格化したため、消耗品の支出額が予想より少なかった。
胆汁分析を4月当初から本格化しており、前処理のための消耗品や分析カラムの購入費用として使用する。また、POPsやPAHsの曝露源を推定するため、共同研究者間の意見交換の場を設けるための旅費及び、成果発表のための旅費をして使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Air Qual. Atmos. Health
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1007/s11869-017-0467-y
Arch. Environ. Contam. Toxicol.
巻: 72 ページ: 58-64
10.1007/s00244-016-0327-z
Biomed. Chromatogr.
巻: 31 ページ: 印刷中
10.1002/bmc.3862
Food Anal. Methods
巻: 9 ページ: 3345-3351
10.1007/s12161-016-0530-6
J. Environ. Sci.
巻: 49 ページ: 213-221
10.1016/j.jes.2016.06.007
J. Chromatogr. A
巻: 1459 ページ: 89-100
10.1016/j.chroma.2016.06.034
http://www.p.kanazawa-u.ac.jp/~eisei/j_home_framepage.html