研究代表者らは、Nef mRNAの5’非翻訳領域(5’UTR)にNefの翻訳に必須となる配列NERの存在を明らかにし、種々の結果からNefが他に例を見ない独特な翻訳メカニズムで発現している可能性が考えられた。本研究では、NERを介したNef翻訳・発現の機構を解明し、HIV感染症の機能的治癒の治療法開発に貢献しうる分子ターゲットを見いだすことを目的としている。 平均的なmRNAはその5’UTRは平均200ヌクレオチド(nt)程度であり3’UTRは1000 ntを超える。それに対して、Nef mRNAは5’UTRが700 nt以上で3’UTRは200 nt程度である。一般的に3’UTRはmicroRNAによる翻訳制御の標的として配列を含むとして近年注目されている。一方、5’UTRは翻訳開始・促進等に関わる構造・領域の存在が知られている。例えば5’Cap構造、ウイルスにおいてはIRES 等である。この非常に長いNef mRNAの5’UTRに着目し、未知のNef発現の促進・増強メカニズムの存在を仮定し、その解明を試みた。 その結果、Nef mRNAの5’UTRのNER内のある種の変異体においてはNefの発現が著しく低下し、Nefの機能低下を導くことが明らかになった。また、そのNERの特徴的な2次構造がNefに重要であることが示唆された。さらにNERの変異によるNef発現レベルの低下には、Nef mRNAの細胞質/核存在比の有意な低下を伴うことが明らかになり、Nef mRNAの効率的な核外輸送にNERが関与していることが示唆された。 本研究によりNef mRNAのNERを介したNefの効率的な発現メカニズムの一端を明らかにした。
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