我々はこれまでに,バイオオルガノメタリクス研究に取り組む中で,抗酸化作用と線溶活性を示す銅錯体(Cu10)を見出している。そこでこのCu10が血管内皮細胞のプロテオグリカン合成に影響を与える可能性について検討した。 血管内皮細胞に発言しているプロテオグリカン分子種のうちCu10は細胞膜貫通型のへパラン硫酸プロテオグリカン分子種のシンデカン-4の発現を濃度依存的かつ時間依存的に誘導することを明らかにした。その他の分子種の発現についてはビグリカンとシンデカン-2に増加傾向が観察されたが,シンデカン-4の発現上昇に比べるとその程度はわずかであった。一方,シンデカン-1の発現については逆に減少傾向が認められた。この活性は,Cu10の構造を維持していることが重要であり,無機金属である硫酸銅(CuSO4)や配位子であるジエチルジチオカルバメート(EDTC)ではシンデカン-4の発現誘導活性は認められなかった。さらに,Cu10の配位する金属を銅から亜鉛,ニッケル,鉄に置換してもCu10のようなシンデカン-4誘導活性は認められなかった。また,配位子をEDTC以外の構造にした銅錯体では活性は認められなかった。従って,この血管内皮細胞におけるシンデカン-4誘導は Cu10に特異的な活性であることが示された。 このメカニズムについて検討を行ったところ,シンデカン-4の誘導はp38MAPKの活性化に依存したが,Smad2/3,Nrf2,およびEGFRの活性化には依存しなかった。この研究で得られたデータは,p38 MAPKが血管内皮細胞におけるCu10によるsyndecan-4の発現を誘導する重要な分子であることが示された。
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