研究課題/領域番号 |
15K08049
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
打矢 恵一 名城大学, 薬学部, 准教授 (70168714)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Mycobacterium avium感染症 / 病態 / 増加要因 / 感染様式 |
研究実績の概要 |
平成29年度に実施した研究の成果について、本研究課題の目的の一つである我が国におけるMycobacterium aviumにより引き起こされる肺疾患である肺M. avium症の増加要因の解明について研究実施計画に基づいて研究を行った結果、以下の研究成果が得られた。 1.我が国において肺M. avium症の罹患率は急増しており、その解明は社会的および学術的に極めて重要である。研究協力機関である国立病院機構東名古屋病院に保存されている全国の国立病院機構の各施設より分与された病態が明らかな肺M. avium症患者由来のM. avium46株の次世代シーケンサー解析により得られたゲノム解析データを用いて、web上で公開されている海外(米国やドイツ)で分離・解析されたM. avium11株のゲノム情報を利用して国内由来株のゲノムと比較を行った。各ゲノムの塩基配列のSNPs(single nucleotide polymorphisms)を基に系統樹解析を行った結果、国内株と海外株は異なったクラスターを形成し、両グループの菌株間には遺伝学的に大きな違いがあることが判った。 2.我が国で急増している肺M. avium症の増加要因の解明を行うために、両グループの菌株のゲノムの塩基配列の比較を行った。その結果、国内由来株のゲノム上に特異的な遺伝子領域が見られ、その領域には以前に我々が報告した病原性や薬剤耐性に関わる遺伝子がコードされた194,711 bpの巨大なpMAH135プラスミドやM. aviumのゲノム上にコードされた病原性に関わる種々の因子が存在していた。以上の結果から、pMAH135やこれらの病原遺伝子が国内における肺M. avium症の増加要因に関与している可能性が強く示唆され、これらの情報は我が国での増加要因の解明において非常に有用な知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、M. avium症の病態および増加要因を解明するとともに、M. avium症の感染様式の解明を行うことである。これまで研究実施計画に基づいて行った研究の進捗状況から、下記の理由により、現在までの達成度については概ね達成できたと考える。 1.肺M. avium症の病態について、肺M. avium症患者由来株を臨床データに基づいて、悪化群由来株と安定群由来株に分け、これらの臨床分離株のゲノムを次世代シーケンサーにより解析を行った。そして、得られた塩基配列のSNPsを基に系統樹解析を行った結果、悪化群と安定群由来株は異なったクラスターを形成し、悪化群由来株が有意に多く存在するクラスターが形成された。この結果は、MATR-VNTR型別解析による系統樹の結果とほぼ一致し、MATR-VNTR解析の有用性が確認できた。この結果から、病態の予測が可能となり臨床上、重要な知見を得ることができた。 2.悪化群由来株の遺伝学的な特徴を調べるために、ゲノムの塩基配列の比較を行った結果、悪化群由来株に特異的な遺伝子領域が存在し、その領域にはpMAH135やM. aviumの病原性に関わる種々の因子がコードされていた。このような結果から、これらの因子が肺M. avium症の悪化に関与している可能性が強く示唆され、肺M. avium症の病態の解明に大きく寄与することができた。 3.M. avium症の増加要因の解明について、肺M. avium症の国内由来株と海外由来株のゲノムの比較を行った結果、国内由来株のゲノム上に特異的な遺伝子領域が見られ、その領域にはpMAH135プラスミドやM. aviumのゲノム上にコードされた病原性に関わる種々の因子が存在していた。以上の結果から、これらの病原遺伝子が国内における肺M. avium症の増加要因に関与している可能性が強く示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策について、M. avium症の感染様式や宿主特異性の解明のため、肺M. avium症患者由来株(経気道感染株)やHIV陽性患者由来株(経腸感染株)、またブタ由来株を用いてゲノムの比較・検討を行うことにより、その解明を行う。 M. avium症の感染様式は、経気道感染と経腸感染の大きく2つに分けられる。前者である肺M. avium症は、経気道的に侵入した菌が肺の組織内で増殖することにより呼吸器病変を引き起こす。一方、後者の播種型M. avium症は経口感染した菌が腸管の上皮細胞より侵入しリンパ組織を経由して全身に広がる。このような感染様式の違いが何に起因しているか不明である。さらに、M. aviumはブタに対しても経腸感染するが、ヒトに感染する菌株との違いについては明らかでない。M. avium症の感染様式や宿主特異性の解明のため、HIV陽性患者由来株とブタ由来株のゲノム解析を行い、肺M. avium症患者由来株のそれと比較・検討を行うことにより、それらの違いを詳しく調べる。
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