糖尿病はアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の危険因子であると考えられているが、その分子メカニズムについては不明な点が多い。我々はこれまでアルツハイマー病の発症に関わり、インスリンが神経細胞におけるGM1ガングリオシドの減少とアミロイドβタンパク質(Aβ)の会合抑制を引き起こすこと、脂肪細胞由来のレプチンがMAPキナーゼ経路を介してアストロサイトにおけるネプリライシンの発現を抑制してAβの分解を阻害すること、等を明らかにしてきた。本研究では、糖尿病における慢性炎症とその制御に関わる脂質メディエータ(ケトン体と長鎖脂肪酸)及び各標的タンパク質の機能に着目する。ミクログリアによるToll様受容体4(TLR4)刺激によるサイトカイン産生に対するβヒドロキシ酪酸(β-HB)の受容体HCA2の免疫応答の制御と神経細胞保護機能について調べた。 マウスミクログリアBV-2細胞において、β-HBはリポポリサッカライド(LPS)誘導性のIL-6とIL-1βのmRNA産生を抑制した。一方で、同じ炎症性サイトカインであるTNF-α産生に対してβ-HBは抑制効果を示さなかった。また、ウェスタンブロッテイング解析によりERK1/2のリン酸化などのMAPキナーゼ経路の活性化の抑制は観察されたが、NF-κB経路の活性化(IκBの分解)を抑制する作用は観察されなかった。Giの阻害剤である百日咳毒素によりβ-HBの抗炎症効果が抑制されたことから、β-HBはGタンパク質を通じてMAPキナーゼの活性化を抑制し、炎症性サイトカインの産生を抑制していることが示唆された。
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