研究課題/領域番号 |
15K08052
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
川崎 直人 近畿大学, 薬学部, 教授 (60271409)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオマス / 希少金属 |
研究実績の概要 |
平成28年度研究実施計画書に基づき,以下に関する知見を得た。 1. 小麦ふすまによるCrおよびMoの吸・脱着能評価 植物バイオマスである小麦ふすま(WB)を用いてCrおよびMoの吸・脱着能について評価した。WBは,CrおよびMoに対して吸着能を有していることを明らかとした。特に,1000℃で焼成処理したWB(WB1000)で最も高い吸着能を有していることが分かった。WBによるMoの吸着には,WB中に含有されているタンパク質が関与していることを確認した。また,前年度明らかにした諸物性値との関連性も明らかとなった。さらに,WBにより吸着したMoは,脱着液である水酸化ナトリウム水溶液により,回収できることが明らかとなった(回収率:約75~95%)。実用化を指向した水環境中からの回収能に関する検討では,WB1000を用いた場合,CrおよびMoの二成分混合溶液中からも回収できることを確認した。 2. バジルシードおよびタピオカによるSrおよびCsの吸・脱着能評価 植物バイオマスであるバジルシードおよびタピオカ共に,SrおよびCsの吸着能を有していることを明らかとした。バジルシードおよびタピオカの吸着能は,焼成温度や水溶液pHの影響を受けることが分かった。糊化および焼成処理を施したタピオカ(BTP300)を用いた場合,優れたSrおよびCsの吸着能を示し,これら吸着したSrおよびCsは,塩酸水溶液を用いることで,回収が可能であることを明らかとした。一方,バジルシードによる吸着機構には,構成成分である糖類が一部関与している知見を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度,火力発電所焼却灰中における希少金属からCr, Mo, SrおよびCsをターゲットとすることを確認し,各種植物バイオマス(小麦ふすま,タピオカおよびバジルシード)の諸物性値を明らかとしている。本年度は,昨年度得られた知見を基に,希少金属に対する吸着能,脱着能および吸着機構について新たな知見を得ることができた。 昨年度得られた吸着等温線,吸着速度,吸着時における温度およびpHの影響の知見に加え,各種解析を行うことにより,吸着能に関与する因子を明らかとすることができた。さらに,各種諸物性値との関連性を評価することにより,より詳細な吸着機構についても知見を得ることができた。本年度は,これまで得られた結果を基に,希少金属の回収能(脱着能)についても併せて評価した。その結果,各種脱着溶液(水酸化ナトリウム水溶液および塩酸水溶液)を使用することにより,目的の希少金属を脱着,回収できることが分かった。 また,実用化を指向した検討に関しては,小麦ふすまによるCrおよびMoの同時吸着が可能である知見を得ており,脱着能(回収能)についても現在検討中である。希少金属の回収機構についても現在考察中である。本年度得られた知見は,昨年度から引き続き,研究実施計画書に準じており,現在までの到達度としては,概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた知見および平成29年度(平成28年度以降)研究実施計画書に基づき,植物バイオマスによる希少金属の脱着実験と評価,水環境中(フィールド)からの希少金属の回収に関して基礎研究を行う予定である。 植物バイオマスによる希少金属の脱着能評価は,本年度得られた知見を基に評価する。既に脱着液に適した液性は明らかとなっており,今後は持続可能な回収技術(希少金属の繰り返し吸・脱着能)に関して検討する。単成分系溶液のみなら二成分系溶液に関しても検討することで,より実用化に適した条件を評価する。希少金属の特性に合わせて,脱着液に特徴を持たせることも想定している。 水環境中(フィールド)からの希少金属の回収に関しては,上記で得られた知見を基に評価を行う予定である。すなわち,過去2年間の吸着能および脱着能データより,詳細な吸着機構を明らかとし,関与する因子を明らかとする。さらに,実用化を指向し,多成分系溶液中からの希少金属の回収能,研究室レベルでの小規模な通水実験,希少金属回収時における共存物質の影響などを評価する。 さらに,来年度は本研究課題の最終年度となるため,これまで得られた知見から希少金属回収のための植物バイオマスの有用性を明らかとし,社会還元するためのシステム構築に関しても方針を示す予定である。
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