研究課題/領域番号 |
15K08053
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
野坂 和人 武庫川女子大学, 薬学部, 教授 (10228314)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヘリコバクター・ピロリ / チアミン / トランスポーター |
研究実績の概要 |
世界人口の半数以上が感染しているとされるピロリ菌Helicobacter pyloriは、胃粘膜に長期間持続感染して、胃炎、胃潰瘍、胃ガンを誘発する。現在、除菌療法としてプロトンポンプ阻害剤と抗生物質による併用療法が普及しているが、耐性菌の出現や再感染が臨床上問題となっている。 植物や微生物のチアミン(ビタミンB1)生合成では、ピリミジン部(hydroxymethylpyrimidine、HMP)とチアゾール部(hydroxyethylthiazole、HET)が独立した経路で合成され、それぞれのリン酸エステル化合物が縮合してチアミン骨格が形成される。しかし、ピロリ菌はHMPおよびHET合成経路を欠失しているため、チアミンの供給を外界からの取り込みに依存しており、チアミンの輸送系を阻害する化合物は抗ピロリ菌剤として有望と思われる。一方、ピロリ菌の推定チアミントランスポーターはnicotinamide riboside トランスポーターの相同タンパク質(HP1290遺伝子産物)であり、ヌクレオシド誘導体がチアミンの取り込みを阻害する可能性が考えられる。そこで本研究では、ピロリ菌におけるチアミン取り込み機構を生化学的に解析し、次いでヌクレオシド誘導体のチアミン吸収阻害作用とピロリ菌生育阻害作用を評価することで、チアミン輸送系を標的とする抗ピロリ菌剤を開発するための基盤となる知見を得ることを目的とする。 平成27年度は、先ずピロリ菌がチアミンもしくはHMPとHETの共存下でのみピロリ菌は生育することを確認した。次に、HP1290遺伝子を大腸菌で発現させたところ、細胞内チアミン濃度と[3H]チアミンの取り込み活性が上昇することが観察され、HP1290はチアミン輸送タンパク質であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ピロリ菌はバイオセーフティレベル2病原体であり、研究代表者は既に本学の「バイオセーフティ委員会」から本実験の承認を受けていたが、RI研究施設に安全キャビネットを設置するまで[3H]チアミンの取り込み実験は待たねばならなかった。そのため、計画書に予定していたピロリ菌を用いたチアミン取り込み実験に関するデータ蓄積が十分でない現状である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験計画として、先ずピロリ菌におけるチアミン取り込み系の生化学的な性質を明らかにする予定である。具体的には、チアミン取り込み時のpHと温度の影響、塩やグルコース添加の効果、チアミンに対するKm値などの速度論的パラメーター、基質特異性等を検討する。また、HP1290遺伝子を破棄したピロリ菌を作成し、チアミン取り込み活性に及ぼす影響を観察する。 一方、ピロリ菌のチアミン取り込みを阻害する可能性のある化合物として、nicotinamide ribosideのようなナイアシンヌクレオシド誘導体やHMP ribosideのようなピリミジンヌクレオシド誘導体が考えられる。これらの化合物を調製または合成してピロリ菌のチアミン取り込みに対する作用を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ピロリ菌はバイオセーフティレベル2病原体であり、研究代表者は既に本学の「バイオセーフティ委員会」から本実験の承認を受けていた。しかし、RI研究施設に安全キャビネットを設置するまで[3H]チアミンの取り込み実験は待たねばならず、消耗品等の費用が予定より少額になった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、ピロリ菌のチアミン取り込みを阻害する可能性のあるピリミジンヌクレオシドの合成を計画している。そのための有機合成用試薬代として当初の計画に上乗せして使用する予定である。
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