研究課題
本研究者らはこれまでにCdの細胞内への取り込みにZn輸送体ZIP8, ZIP14が重要な役割を果たすことを見出してきた。本研究はCd毒性の標的組織である腎臓におけるCdの輸送機構を詳細に明らかにするために、近位尿細管のS1、S2、S3それぞれの領域から作成した不死化細胞を活用し、尿細管の部位特異的な輸送機構の解明を目指した。本年度は、ZIP8が特にS3領域におけるCdの取り込みに関与している可能性を明らかにするためS3細胞におけるZIP8の発現抑制を試みた。siRNAを用いてZIP8の発現低下を誘発することができなかったので、現在CRISPR-Cas9系を用いたゲノム編集によりZIP8の発現抑制を行っている。本研究者らは、Cd-メタロチオネイン複合体(Cd-MT)が尿細管上皮細胞のS1, S2領域で取り込まれた後、一部がCdとして管腔側に排泄され、再びS3領域の上皮細胞に再吸収される、というCd動態を提唱している。そこで今年度はGST融合mouse MT-Iタンパク質の大腸菌系での大量精製を試みた。GST-MT1の精製には成功したため、今後MT1タンパクの精製を行う予定である。近年、腎障害のより鋭敏な指標として、Kim-1, clusterinなどの腎障害バイオマーカーが報告されている。しかしその機序はよく分かっていない。そこで、これらのマーカータンパク質の部位特異的発現レベルをmRNAレベルで検討した。Cdに1日曝露するとKim-1のmRNA発現がS1, S2, S3細胞全てで有意に上昇した。また、3日および6日曝露後にもS1, S3細胞において上昇を確認できた。今後、Cd-MT曝露時のKim-1, clusterin発現量をCdイオン曝露時と比較する予定である。
3: やや遅れている
1. ZIP8の発現抑制のため、siRNAを用いて発現抑制を試みたが、S3細胞におけるZIP8の発現低下は確認できなかった。siRNAの導入条件検討に時間がかかったため進行が遅れた。現在、CRISPR/Cas9系を用いてゲノム編集によりZIP8の発現抑制を行っている。2. Cd-MTを用いた輸送およびさまざまな検討は今年度開始する予定であったが、recombinant マウスメタロチオネイン(MT)タンパク質を大腸菌で作製が難航し、遅れた。GST-MTから切り出したMT1はCBB染色では染まらなかった点、GST-MTの切断に必要なproteaseの量が予想以上に多く必要だったことが精製を困難にした原因だったと考えられる。現在、GST-MT1の精製までは成功したため、残りのステップの条件を検討し、MT1およびほかのタンパクについて精製でき次第、カップ培養系に添加してS1, S2, S3細胞への取り込みおよび排泄実験を実施することで、さらに詳細な機構を解析していく予定である。
本年度完成予定だったRecombinantマウスメタロチオネインタンパク質 (mMT1) をまず精製する。このタンパクの精製確認後、CdとMTを結合させたCd-MTの調製を行い、S1, S2, S3細胞における尿細管原尿側、血管側でのCd-MT取り込み・排泄効率についてカップ培養システムを用いて検討する。また、S1, S2, S3細胞におけるCdイオンの取り込みに関わる輸送体を同定する。CdイオンまたはCd-MTとしてCdを添加し、Cdの排泄効率にS1, S2, S3細胞で差があった場合は、近位尿細管の領域によってCdの排泄に関与する輸送体の発現量が異なっている可能性が考えられる。その場合、最も排泄効率の差が大きい2つの細胞間における遺伝子発現の差をmicroarrayにより網羅的に解析し、Cdの排泄に関わる輸送体の探索を試みる。Cd以外の腎障害誘発物質についてもS1, S2, S3領域特異的なカップ培養システムを活用し、輸送および毒性発現の解析を開始する。
全額使い切る予定だったがきりのいい金額にならなかったため、次年度に繰り越した。
来年度の消耗品として使用する。
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J. Biol. Chem.
巻: 291(28) ページ: 14773-14787
10.1074/jbc.M116.728014