研究課題/領域番号 |
15K08061
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
安達 玲子 国立医薬品食品衛生研究所, 生化学部, 室長 (10291113)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 食物アレルギー / 経皮感作 |
研究実績の概要 |
近年、食物アレルギー発症における経皮感作経路の重要性が指摘されている。わが国におけるコムギタンパク質の部分的加水分解物を含有する石鹸によるコムギアレルギー発症事例でも、コムギタンパク質が皮膚から取り込まれ感作が進行したと考えられている。筆者らはこれまでにマウスを用いた経皮感作実験系を確立し、分子量数万程度のタンパク質を多く含むコムギタンパク質部分加水分解物により経皮感作が成立すること等を実証してきた。本研究では、食物アレルゲンタンパク質による経皮感作のメカニズム等の解析、及び経皮感作の指標となるマーカー分子の探索を行う。本研究により、経皮感作による食物アレルギー発症の防止に資する有用な成果が得られるものと考える。 本研究で用いた経皮感作実験系の概要は次のとおりである。①マウス背部を剃毛し、ヒト皮膚テスト用パッチを用いて種々の食物アレルゲンタンパク質を貼付([3日間貼付-4日間休止]×4回(4週))。 ②感作前、感作3週及び4週後に部分採血し、IgE、IgG1抗体等の産生を確認。 ③感作終了後、抗原を腹腔内投与してアナフィラキシー反応を惹起し、体温低下や血中ヒスタミン濃度の測定、アナフィラキシー症状の観察(Th2型免疫応答(Ⅰ型アレルギー)が誘導されたことを確認)。 27年度は、皮膚におけるTh2型免疫応答の誘導に重要な役割を果たすサイトカインであるTSLP(Thymic stromal lymphoprotein)に着目し、アレルゲン経皮感作時の血中TSLP濃度に関する解析を中心に検討を進めた。その結果、感作群と対照群との間に有意差は見られず、血中のTSLP濃度を経皮感作の指標とすることは難しいことが示された。28年度は、抗原貼付部位の皮膚組織中のmRNAの解析についても実施し、経皮感作時のTSLP及びその他のサイトカインの役割に関する検討を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
皮膚は体表面側の表皮とその下の真皮の二重構造となっている。食物アレルギーと同じくⅠ型アレルギー(IgE抗体関与型)疾患であるアトピー性皮膚炎においては、ケラチノサイト(角化細胞、表皮の主要な構成細胞)が産生するサイトカインであるTSLP(Thymic stromal lymphoprotein)がTh2型(アレルギー誘発型)免疫応答を引き起こす重要な因子であることが報告されている。そこで27年度においては、食物アレルゲン経皮感作時の血中TSLP濃度について検討した。アレルゲンとしては卵のアレルゲンである卵白アルブミン及びオボムコイドを用い、前述のマウス経皮感作実験系により経皮感作を行った。感作終了後、抗原の腹腔内投与によるアナフィラキシー反応について検討するとともに、血中のTSLP濃度をELISAにより測定した。その結果、卵白アルブミンあるいはオボムコイドの経皮投与により感作が進行し、血中の抗原特異的IgE及びIgG1抗体濃度が大きく増大した。また、感作終了後の抗原腹腔内投与によりアナフィラキシー反応が惹起され、体温低下、アナフィラキシースコアの増大、及び血中ヒスタミン濃度の増大が顕著に見られた。しかし、血中のTSLP濃度に関しては感作群と対照群との間で有意差は見られなかった。これらの結果より、血中のTSLP濃度を経皮感作の指標とすることは難しいことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように食物アレルゲンの経皮感作において、血中TSLP濃度は感作の良好な指標にはならないことが明らかとなった。1つの理由として、経皮感作は抗原を貼付した部位を中心として進行するため、TSLPは局所的に産生されると考えられるが、産生されたTSLPが末梢血中に入ると拡散して濃度が低下するという可能性が考えられる。従って今後は、感作部位の皮膚組織中のTSLP mRNAに関して、感作の時間経過も考慮しながら検討を進める予定である。また、Th2型ヘルパーT細胞の誘導・活性化への関与が知られているTARC (Thymus and activation-regulation chemokine, CCL17)や、IL-25、IL-33等、その他のサイトカイン類にも範囲を広げて解析する。得られた結果から、アレルゲンタンパク質による経皮感作に関与すると考えられるものを絞り込み、個々のmRNAやタンパク質の解析に加えて、免疫組織染色等の手法を組み合わせ、経皮感作過程に関与するサイトカインの同定を行う。また、これらのサイトカインに対する中和抗体をマウスに投与し、経皮感作が抑制されるか否かを検討することにより、対象となるサイトカインの重要性を検証する。このような解析を通して、経皮感作の指標としてのサイトカイン類の有用性について検討し、マーカー分子としての確立を目指す。また、皮膚の抗原提示細胞には、表皮に存在するランゲルハンス細胞、真皮に存在する樹状細胞があり、かつ樹状細胞には幾つかの種類がある。本研究では、マウス皮膚の経皮感作部位におけるこれらの抗原提示細胞の活性化やTh2型免疫応答の誘導能等についても今後合わせて検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度においては、経皮感作時の血中TSLP濃度に関する検討を中心として研究を進めた。従って、経皮感作実験を実施するために必要な実験用マウスや抗原、抗原貼付及び感作・アナフィラキシー反応惹起に関するアッセイに必要な試薬・器具類、TSLPの定量のためのELISAキットや必要な消耗品類の購入を中心として研究費を使用した。TSLP以外のサイトカインや抗原提示細胞に関する検討は行わなかったため、当初購入を予定していた試薬・器具類の一部を購入せずに27年度の検討が終了した。従ってその差額は28年度の検討において使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度においては、経皮感作に関与するサイトカイン類に関する解析として、タンパク質だけではなくmRNAの検出を加えて幅広く検討を進める予定であり、そのために必要な試薬・器具類を中心として消耗品を購入する。また、マウスを用いる経皮感作実験の実施が必須であるため、27年度と同様に、実験用マウスや抗原、あるいは抗原貼付及び各種アッセイに必要な消耗品類も適宜購入する。また、皮膚の抗原提示細胞に関する検討も開始する予定であり、このような検討を支障なく進めるために必要な試薬・器具類も適宜購入することとなる。
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