研究実績の概要 |
Apoptosis-inducing factor (AIF)は、ミトコンドリアの内膜に局在して電子伝達系に関与することで細胞の機能維持に働いていると考えられている。一方、刺激によりAIFは膜付近のL101/103付近において切断されたAIFは核に移行して細胞死を誘導すると報告があるが、AIFは細胞死には重要な役割を果たしていないとの報告(Immunity, 2015)もある。AIFのミトコンドリア内での役割としてCHCHD4タンパクとの相互作用が報告されているが(Mol Cell, 2015)、AIFの機能にはいまだ不明な点も多い。ごく最近になり、AIF遺伝子変異がシャルコー・マリー・トゥース病やカウチョック症候群など多くの複雑な神経系疾患に関与していることが報告されているが、AIF分子との関連性は明確ではない。 以上のような背景から、細胞死への関与以外にAIFの細胞機能に与える影響を明らかにすることを目的として検討を行った。まず、ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9を用いてPC12細胞を改変し、切断されないAIF変異体(L101/103G)のみをRosa26 locusに有する細胞を樹立した。次に、この細胞を用いて細胞増殖とNGF分化の過程を解析すると、細胞増殖が顕著に減少するほかに、NGF刺激による神経様突起形成がMAPK(ERK, JNK, p38)リン酸化が野生型と同様に起きるにもかかわらずほぼ完全に阻害された。さらに、関与する原因遺伝子を明らかにするために、野生型とAIF変異体(L101/103G)の遺伝子発現をDNAマイクロアレイを用いて解析した。その結果、EGF receptor, early growth response-1, c-fosのほかneurexin-1, HSP70などの発現が著しく低下しており、AIFは細胞増殖や神経分化など多くの遺伝子発現制御に関与していることが示唆された。
|