研究課題/領域番号 |
15K08064
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 健弘 東北大学, 医工学研究科, 特任准教授 (50396438)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 虚血再灌流 / シスプラチン / ミトコンドリア病 / mitofilin / ATP |
研究実績の概要 |
ミトコンドリア機能異常はミトコンドリア由来酸化ストレス(mitROS) の増加とATP の減少により慢性腎不全、急性腎障害、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の原因となる。しかしミトコンドリア病に対する確立した治療法は未だない。我々は腎不全の病態解明のために腎不全患者の血清をmetabolome解析して新たに30種の腎不全物質を同定しerythropoietin (Epo)産生細胞でEpo産生を指標にスクリーニングしたところ、その多くがEpo 産生を抑制する中でEpo産生を促進する化合物を見出した。そこでその化合物から41種の誘導体を合成し、その中にEpo産生を促進し、ストレス下の細胞生存率を改善させATPを増加させるMA-5を見出した(Suzuki T et al. Tohoku journal Exp Med ;236:225232:2015)。MA-5はミトコンドリア内膜クリステの蛋白質mitofilinと結合してATPを増加させmitROSを減少させることが明らかとなった。MA-5はマウス腎虚血再灌流とシスプラチン腎症モデルで尿細管傷害と腎機能を改善した。さらにミトコンドリア病のカーンズ・セイヤー症候群で認められるミトコンドリア変異DNA(4696bp deletion)を体細胞のミトコンドリアに導入した世界初のミトコンドリア病モデルマウス:mitomice(Nakada K. Nat Med 7: 934, 2001)にMA-5を長期経口投与すると心筋細胞と腎臓の尿細管でのミトコンドリア呼吸機能を改善させ、マウスの寿命を延長した(Suzuki T. J Am Soc Nephrol; 27 :1925-1932,2016 )。MA-5はミトコンドリア病の新規治療薬となる可能性があり、現在臨床応用を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MELAS (Mitochondrial Encephalomyopathy Lactic Acidosis and Strokelike Episodes)、Leigh脳症(Leigh syndrome:LS) 、レーバー遺伝性視神経萎縮症 (Leber Hereditary Optic Neuropathy:LHON)、およびカーンズ・セイヤー症候群(Kearns-Sayre syndrome: KSS)の4つの異なるミトコンドリア病患者由来線線維芽細胞を用いた、疾患の培養細胞モデルである酸化ストレス誘導細胞死をMA-5投与はほぼ完全にキャンセルする効果を示した。また、動物モデルでは細胞傷害ストレスによるミトコンドリア機能障害が病態進行のメカニズムであるマウス腎臓虚血再灌流モデルとシスプラチン腎症モデルでMA-5の経口投与により腎機能と腎組織傷害を共に改善した。さらにミトコンドリア病のカーンズ・セイヤー症候群で認められるミトコンドリア変異DNA(4696bp deletion)を体細胞のミトコンドリアに導入した世界初のミトコンドリア病モデルマウス:mitomiceでもA-5を長期経口投与すると心筋細胞と腎臓の尿細管でのミトコンドリア呼吸機能を改善させ、マウスの寿命を延長した。このように患者培養細胞と疾患モデル動物での有効性を確認した。今後の臨床応用に向けて、ラットヘの大量・長期投与よる前臨床毒性試験、サルへの投与による薬物体内動態試験などを施行している。以上の経過より、おおむね順調な進捗状況と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1)MA-5を用いたミトコンドリア病患者への臨床応用の準備をすすめる。 2)基礎実験としてヒト培養ポドサイトを用いた細胞傷害モデルでとくにタンパク尿や糸球体硬化症の原因となる巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)を惹起する各種細胞傷害ストレスに対するMA-5の細胞保護効果を検討する。 3)動物実験モデル、3)-1.ミトコンドリア病のカーンズ・セイヤー症候群で認められるミトコンドリア変異DNA(4696bp deletion)を体細胞のミトコンドリアに導入したmitomiceは体細胞レベルでのmitochodrial DNA(mitDNA)へのミトコンドリア病患者mitDNA導入のため、非常にミトコンドリア病の表現型を良く再現する反面、実験動物(マウス)の数と各マウス・障害臓器毎の変異mitDNA%をそろえて実験をすることが困難な問題を有している。そこで現在、ミトコンドリア内膜呼吸鎖複合体complexⅣのsubunitある、Ndufs4ノックアウト(ko)マウスを導入している。Ndufs4 koマウスは通常のgenome由来のミトコドリア内膜呼吸鎖蛋白質遺伝子のkoマウスのため実験動物の頭数や遺伝子異常の表現型を安定して得られ、かつ重篤なミトコンドリア機能異常によりNdufs4 homo-koマウスは生後8-12週で死亡するため、MA-5投与によるマウス寿命やミトコンドリア傷害に起因する神経・腎臓・心筋障害への治療効果評価に用いる。さらに(3)-2虚血やミトコンドリア機能障害が病態に関わる、薬剤性腎症(造影剤、抗生剤)、3)-3 敗血症性腎傷害モデルでのMA-5の有効性の検討を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
既に確立し、凍結ストックを多数用意できているミトコンドリア患者皮膚線維芽細胞由来培養細胞系や動物実験施設で飼育を継続しているマウスを用いた腎傷害モデルを用いた実験系により、物品・消耗品の費用を節約できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
MA-5投与によるマウス寿命やミトコンドリア傷害に起因する神経・腎臓・心筋障害への治療効果評価に用いる1)ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰ Ndufs4ノックアウト(ko)マウスの導入、2)虚血やミトコンドリア機能障害が病態に関わる、薬剤性腎症(造影剤、抗生剤)モデルの作製、3) 敗血症性腎傷害モデルの作製などの実験計画に用いる予定である。
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