申請者は、過去の研究において、ヘパリンの脂肪族アミン結合体が自己組織化ナノミセルを形成し、NF-kappaB経路の阻害によってリポポリサッカライド(LPS)によるマクロファージの炎症反応を抑制することを明らかにしたが、その作用機構の詳細は依然不明である。そこで、まず、LPSによる炎症反応を網羅的かつ定量的に把握するため、ヒト単球由来細胞THP-1細胞にLPSを作用させた後の各種遺伝子発現をマルチプレックス法により測定し、S-systemモデルを基本として新規開発した因子解析アルゴリズムに基づいて、得られた時系列データを評価した。その結果、LPSは、NF-kappaB、AP-1、STATという3つの転写因子を活性化することが推定された。次に、グリコール開裂ヘパリン-ステアリルアミン結合体(以下、ヘパリン誘導体)の作用メカニズムを解明するために、その共存下、THP-1細胞にLPSを作用させ、上記3つの転写因子と関係のある12種類の遺伝子の発現変動をマルチプレックス法により測定した。その結果、ヘパリン誘導体は、LPSによるNFKBIA遺伝子の発現誘導を有意に抑制する一方で、FOS、JUNB、BTG2の3つの遺伝子に関しては、LPSによる作用に加えてさらに発現を誘導した。一方、I-kappaB阻害剤として知られるTPCA-1の場合には、LPSによるNFKBIA遺伝子誘導をヘパリン誘導体と同様に抑制したものの、ヘパリン誘導体とは異なって、FOSやJUNBに対しては顕著な効果を示さず、BTG2では逆に発現を抑制した。以上、ヘパリン誘導体はNF-kappaB経路に対する阻害作用以外にもAP-1経路の活性化にも関与することが示唆された。
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