研究課題
薬物による肺障害、特に肺線維症は極めて重篤な障害であるが、薬剤性肺障害の発症機構には不明な点が多く、その治療法も確立されていない。近年、肺胞上皮Ⅱ型細胞の筋線維芽細胞への転換(上皮間葉転換EMT))が肺の線維化に関連して注目されている。そこで、本研究では、肺胞上皮細胞を用い、薬剤性肺障害の原因となるEMT 誘発の分子機構を解明することを第一の目的とする。次に、EMT を抑制しうる化合物・薬物を探索・同定し、薬剤性肺障害の予防法・治療法を開発することを第二の目的とする。平成27年度の成果は以下の通りである。1)培養肺胞上皮細胞として、ラットの正常な肺由来RLE-6TN 細胞、当研究室でRLE-6TN に脂質トランスポーターABCA3 の遺伝子を導入し樹立したRLE/ABCA3 細胞、およびヒト肺腺癌由来A549 細胞を用い、 TGF-β1 (10 ng/mL)で処置した。その結果、TGF-β1処置 (48, 72時間) によって、各種細胞の形態は紡錘状となり、アクチンフィラメントのリモデリングも観察され、72時間処置では、上皮系マーカー遺伝子発現量の減少および間葉系マーカー遺伝子発現量の増加が認められ、EMTが誘発されていることが明らかとなった。2)RLE/ABCA3細胞ではABCA3遺伝子の発現量が有意に減少したことからABCA3遺伝子はEMTの新たなマーカーとなる可能性が示唆された。3)肺障害の報告があるブレオマイシンで処置したところ、RLE/ABCA3細胞では、間葉系マーカーとして重要なα-smooth muscle actin遺伝子の発現量が有意に上昇し、ABCA3遺伝子の発現量は有意に減少したが、RLE細胞では有意な変化が認められなかった。従って、RLE/ABCA3細胞は薬剤誘発性のEMTをin vitroで評価する上で、優れたモデルである可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していたように、肺障害性薬物によるEMT 誘発機構を解析するための有用なin vitroモデル細胞としてRLE/ABCA3細胞を見出した。さらに、その細胞を用い、EMT誘発に一部TGF-β1が関与していること、新たなEMTマーカーとしてABCA3が利用できる可能性を見出した。
今後はさらに、TGF-β受容体阻害剤であるSB431542などを共存させ、EMT 誘発に対する影響について検討する。また、それらの薬物によって細胞内でのTGF-β1産生が促進されるかどうかについても検討し、薬物によるEMT 誘発にTGF-β1が関与するか否かを明らかにする。さらに、細胞内情報伝達経路の関与についても研究を進め、薬物処置によるEMT 誘発のメカニズムを解明する。
今年度は様々な培養肺胞上皮細胞を用いて、薬剤誘発性EMTのin vitro評価系の構築を行うとともに、TGF-β1の関与について解析した。遺伝子発現解析を行う際、スケールを小さく、感度は高くなるように実験条件を工夫したため、試薬購入予算に一部繰越が生じた。
当初の計画とおり、肺障害性薬物の細胞内取り込みトランスポーターあるは排出トランスポーターに対する阻害剤の影響を検討する予定であるが、新たにトランスポーターに対するsiRNA による遺伝子ノックダウンの効果についても検討し、肺障害性薬物の細胞内濃度とEMTの関与について更なる研究を進める。また、その関連性が認められた場合、取り込みトランスポーター阻害剤あるいは排出トランスポーター誘導剤を購入し、肺線維症を抑制しうる化合物・薬物の探索・同定を試みる。
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