研究課題/領域番号 |
15K08074
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
湯元 良子 広島大学, 医歯薬保健学研究院(薬), 准教授 (70379915)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 薬物動態学 / 薬剤性肺障害 / 肺胞上皮細胞 / 上皮間葉転換 / TGF-β1 |
研究実績の概要 |
薬物による肺障害、特に肺線維症は極めて重篤な障害であるが、薬剤性肺障害の発症機構には不明な点が多く、その治療法も確立されていない。近年、肺胞上皮Ⅱ型細胞の筋線維芽細胞への転換(上皮間葉転換(EMT))が肺の線維化に関連して注目されている。そこで、本研究では、肺胞上皮細胞を用い、薬剤性肺障害の原因となるEMT 誘発の分子機構を解明することを第一の目的とする。次に、EMT を抑制しうる化合物・薬物を探索・同定し、薬剤性肺障害の予防法・治療法を開発することを第二の目的とする。 平成28年度の成果は以下の通りである。 1)前年度の研究成果から、当研究室で樹立し、薬剤誘発性のEMTをin vitroで評価する上で優れたモデル系であるRLE/ABCA3 細胞を用い、SB431542などのTGF-β受容体阻害剤のEMT抑制効果について検討した。その結果、TGF-β1 とTGF-β receptor阻害剤であるSB431542を併用することによって、RLE/Abca3細胞は敷石状を維持し、遺伝子発現解析においても上皮系マーカー遺伝子、間葉系マーカー遺伝子、および新たなEMTマーカーとなり得るAbca3遺伝子の変動は有意に阻害された。 2)Bleomycin誘発性EMTに対するSB431542併用の効果について検討した結果、RLE/Abca3細胞の形態変動や上皮系マーカー遺伝子、Abca3遺伝子変動に影響は認められなかったが、間葉系マーカー遺伝子の発現変動は全て阻害された。 従って、bleomycinのEMT誘発機構の一部にTGF-β1が関与する可能性が示唆された。 3)抗線維化薬であるピルフェニドンは、RLE/Abca3細胞においてTGF-β1、bleomycin によって誘発されたEMTを抑制せず、methotrexateによって誘発されたEMTをわずかに抑制する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたように、肺障害性薬物によるEMT 誘発に一部TGF-β1が関与していること、SB431542などのTGF-β受容体阻害剤を併用することによって、肺障害性薬物によるEMTを抑制しうる可能性を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに、TGF-β1および薬物処置によるEMT 誘発に関与する細胞内情報伝達経路について解析するため、Smad、MAPK/ERK、p38、NK、NF-κB などの情報伝達系タンパク質の活性化(リン酸化)について検討する。 また、薬物によるEMT 誘発には、その薬物が細胞内に取り込まれる必要があり、薬物の細胞内濃度は取り込みトランスポーターと排出トランスポーターによって支配されている。現在、methotrexateの細胞内濃度に及ぼすトランスポーター阻害剤の影響について一部検討を進めており、今後これら薬物の取り込み機構を解明することによって、肺障害性薬物によるEMTの予防法・治療法の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初の計画とおり、肺障害性薬物によるEMT 誘発に一部TGF-β1が関与していることが判明したため、TGF-β受容体阻害剤の影響や抗線維化薬の影響について検討した。 また、肺障害性薬物の細胞内取り込みトランスポーターあるいは排出トランスポーターに対する阻害剤の影響を検討したが、既に研究室で保有している化合物を用いたため、化合物購入用予算に一部繰越が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
新たなトランスポーター阻害剤の影響についても検討する予定であるが、さらにbleomycinによる細胞障害の誘発には活性酸素種(ROS)が重要であるため、RLE/Abca3細胞において、bleomycin誘発性EMTにROSが関与するか否かについて検討する予定である。
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