ERK経路の恒常的活性化がみられるヒトがん細胞において、ERK経路遮断薬であるMEK阻害剤とHDAC阻害剤との併用効果に近いレベルの相乗効果を、下流のMNKキナーゼ阻害剤(CGP57380) とHDAC阻害剤との併用によっても再現できた。一方、構造の異なるMNK阻害剤(ETP-45835) とHDAC阻害剤との併用効果はほとんど見られなかった。 さらに、ERK経路下流のキナーゼでタンパク質合成翻訳開始マシーナリーの制御中心であるMNKは、現在まで二つのMAPキナーゼであるERKおよびp38の制御下で調節されると報告されているが、各種MAPキナーゼ阻害剤を用いて再検討した結果、三つ目のMAPキナーゼであるJNKもMNK上流MAPキナーゼとして働く可能性を見出した。しかも、MNK1とMNK2アイソフォームでそれぞれ固有のシグナル経路を有していると考えられた。 このことは、MNK1とMNK2に対する阻害効果の特異性が微妙に異なる二種類のMNK阻害剤(CGP57380およびETP-45835)とHDAC阻害剤との併用効果の違い(一貫性のない結果)を反映している可能性もある。 今後は、さらに詳細にMNK1とMNK2アイソフォーム固有なシグナル経路明らかにするとともに、ERK下流のがん治療標的としての可能性をアイソフォームごとに解明していく必要がある。
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