研究課題
近年明らかとなった細胞内に存在するシステインにSが過剰に付加したシステインパースルフィド(CysSSH)のような活性イオウ種(RSS)は、グルタチオンなどの低分子化合物のみならず、いくつかの細胞内タンパク質のシステインもCysSSHを有することが徐々に明らかにされつつある。一方、血清中に最も多く存在するタンパク質であるヒト血清アルブミン(HSA)は、分子内にジスルフィド結合を17対、つまり34残基のCysと遊離型のCysを1残基有するCysteine-richなタンパク質である。1983年の報告により、HSAが生体内でPolysulfurのプールとして機能している可能性が示唆されたものの、アルブミンに結合したSに関する生理学的な意義の解明に関する報告はほとんどない。本研究では、生体内でアルブミンがSの貯蔵機能をもち、このSがアルブミンの機能に与える影響について評価した。これまでの知見として、RSSを検出する蛍光プローブ法、改変メチレンブルー法により、HSAにRSSが存在することが示された。酸化ストレスの上昇が観察される血液透析導入患者血液において、こうしたHSA中RSSは有意に低下していた。さらに、蛍光プローブやメチル水銀等を用いて強制的にHSAからRSSを除去すると、過酸化水素やヒロドペルオキシラジカルに対するアルブミンの抗酸化能が低下した。興味深いことに、これらRSSを除去したHSAは円二色性CDスペクトルや疎水性部位に結合し蛍光を発するプローブを用いた解析により、顕著に構造変化していることが観察された。これらのことから、HSAに存在するRSSは、その抗酸化能や構造の維持に重要な役割を有しており、重要なバイオマーカーになり得ることが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
予定していた実験計画は順調に推移しており、それに加えて、当初予定していなかった新たな活性イオウ種の検出方法を見い出すことに成功したことが当初の計画以上に進展している結果に繋がっていると考えている。
今後の研究推進として、血清中の活性イオウ種濃度は非常に鋭敏な生体健常マーカーになりえることから、健常人の血清を網羅的に解析し、今後の健康状態の予測や、疾患予測などにも繋がるよう、健常血清における活性イオウ種含量の定量を優先的に行い、ヒト血清アルブミンに活性イオウを多く付加したPolyイオウ化ヒト血清アルブミンの構築を並行して行っていくこととしている。具体的には、Poly-SSH化HSAの作製に関しては、これまでに報告してきたPoly-SNO-HSAの作製方法(HSAに、Lys残基のアミノ基にSHを導入する目的でイミノチオランを添加し、その後亜硝酸イソペンチルにてSNO化を行うもの)にH2S供与剤を加える方法が使用できると考えている。また、これらの生物活性解析は、HSAの元来有するリガンド結合能や抗酸化活性、エステラーゼ様活性における34Cys-SSH化の影響などから着手し、酸化ストレス疾患(慢性腎臓病や慢性肝疾患、敗血症など)モデルマウスへの34Cys-SSH化HSAやPoly-SSH化HSA投与実験にて、その有用性を評価する。評価項目は、血清LDH評価をはじめ、肝臓や腎臓の機能評価(AST、ALT、BUNなど)、細胞死(アポトーシス、ネクローシス)の形態や各種抗体による免疫染色やウエスタンブロット等の評価を行い、関連するシグナル分子を同定する予定である。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
J Control Release.
巻: 217 ページ: 1-9
10.1016/j.jconrel.2015.08.036.
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 465 ページ: 481-7
10.1016/j.bbrc.2015.08.043.
PLoS One.
巻: 10 ページ: e130248
10.1371/journal.pone.0130248.
Cancer Sci.
巻: 106 ページ: 194-200
10.1111/cas.12577.
J Pharmacol Exp Ther.
巻: 352 ページ: 4238-48
10.1124/jpet.114.219493.
http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/Labs/Yakuzai/index.html