研究課題/領域番号 |
15K08081
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
平野 俊彦 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (90173252)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 免疫抑制薬 / インスリン / ヒト末梢血単核細胞 / T細胞増殖 / シクロスポリン / タクロリムス / ミコフェノール酸 / グルココルチコイド |
研究実績の概要 |
健常者末梢血単核細胞(PBMC)を用い、グルココルチコイドおよび各種免疫抑制薬のリンパ球増殖抑制作用に対するインスリンの効果とその背景にある分子機序を以下の様に検討し、各実績を得た。
1.T細胞マイトゲンで刺激した健常者PBMCの増殖に対するプレドニゾロン、シクロスポリン、タクロリムス、あるいはミコフェノール酸の抑制効果に及ぼすインスリンの影響を、ヒトPBMCの薬物感受性試験法(Hirano、Int Immunopharmacol review、2007年)を用いて検討した。いずれの免疫抑制薬の効果に対しても、5または50μU/mLのインスリンは有意に減弱作用を示した。2. PBMC中のT細胞におけるインスリン受容体数と、上記インスリンの効果との関連を調べた。インスリン受容体発現量や受容体陽性細胞率を、抗インスリン抗体で標識した細胞のフローサイトメトリー解析により算出した。インスリン受容体はマクロファージ様細胞に存在することを示したが、上記インスリンの効果との関連は明確でなく、次年度以降の課題とした。3.免疫抑制薬の効果に対するインスリンの作用機序を明らかとするため、インスリン受容体アゴニスト/アンタゴニスト(S961)の存在下に、上記インスリンの効果を調べた。S961がインスリンの効果を減弱させることを示した。
以上の検討結果より、インスリンはPBMC中のマクロファージ様細胞上のインスリン受容体を解して、免疫抑制薬の作用を修飾している可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を開始する前の予備的検討結果から、インスリンがPBMCのT細胞マイトゲン応答性増殖に対するグルココルチコイドの抑制作用を減弱させるという知見を得ていた。本年度はこの知見を支持するより確実なデータを得ることができた。さらに、予定通りシクロスポリン、タクロリムス、およびミコフェノール酸の抑制効果に対しても、インスリンの減弱作用を確認できた。これらの基本的現象は、今後本研究を遂行するための基盤となる。さらに本年度は、PBMC中のマクロファージ様細胞にインスリン受容体が存在すること、およびその阻害薬はインスリンの効果を遮断することを確認できた。以上の点を勘案し、初年度としておおむね順調に研究が進展していると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
健常者PBMCを用いた平成27年度の成果を踏まえ、平成28年度以降は健常者、糖尿病性腎症を合併する慢性腎不全患者、あるいは腎移植患者のPBMCを対象とし、グルココルチコイドや各種免疫抑制薬のPBMC増殖抑制作用に対するインスリンの影響を検討する。具体的には、以下の項目について、患者PBMCを対象とした検討を進める。 1・T細胞マイトゲンや抗CD3抗体等で刺激した患者PBMCの増殖に対するヒドロコルチゾンおよび各種免疫抑制薬の効果に及ぼすインスリンの影響を、ヒトPBMCの薬物感受性試験法を用いて検討する。対象とする患者数は、慢性腎不全患者および腎移植患者共に30例前後とする。臨床検体は、東京医科大学やけいゆう病院の協力を得て入手する。 2.平成27年度における健常者PBMCを用いた検討結果から類推されるインスリンの作用機序に則り、同じ手法を用いて患者PBMCに対するインスリンの効果の作用機序を確認する。 3.糖尿病の治療にインスリンを使用していた腎移植患者とインスリン未使用の同患者間で、腎移植後の臨床経過に違いがあるか否か、レトロスペクティブに検討する。検討項目として、急性または慢性拒絶反応のエピソードの有無や発症回数、維持免疫抑制療法に使用したグルココルチコイドや免疫抑制薬の投与量の違い、免疫抑制薬(シクロスポリンまたはタクロリムス)の血中濃度の違い、サイトメガロウイルス感染症等の感染症発症頻度、その他血清クレアチニン値を含む各種検査値等とする。 以上の成果を総合し、インスリン治療中の腎移植患者における、安全かつ有効な免疫抑制薬の使用法を考察、提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の実験計画内容はほぼ順調に遂行されたが、インスリンの作用機序解析に関してのみ、当初予定していたよりも実験回数が多く必要となり、そのためにやや時間を取られ当初予定していた内容をすべて完結できなかった。そこでインスリンの作用機序解析に関連した実験を、一部次年度に持ち越すこととした。それに従い、当該実験に用いる試薬の一部を購入する費用を次年度使用額とした。
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次年度使用額の使用計画 |
免疫抑制薬の効果を減弱させるインスリンの作用機序について、PBMC培養系にインスリン受容体阻害薬を添加する実験を、平成27年度内にすべて完結できなかった。そこで当該実験を次年度に行うべく、それに必要な試薬を購入するため、平成27年度の使用額の一部を次年度助成金と合わせて使用する。
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