研究課題/領域番号 |
15K08087
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
鈴木 琢雄 国立医薬品食品衛生研究所, 生物薬品部, 主任研究官 (10415466)
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研究分担者 |
橋井 則貴 国立医薬品食品衛生研究所, 生物薬品部, 室長 (20425672)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | FcRn / 抗体医薬品 / 表面プラズモン共鳴 / Fcγ受容体 / 半減期延長 / アミノ酸改変 / 水素重水素交換/質量分析 |
研究実績の概要 |
抗体医薬品は,そのFc部分が血管内皮細胞等に存在する新生児型Fc受容体(FcRn)と結合し,分解から保護されることで,比較的長い血中半減期を持つことが知られている.そのため,投与量や投与頻度の低減を目的とし,FcRnとの親和性を上昇させたFc改変抗体が開発されているが,FcRn親和性の上昇が生体内での血中半減期の延長につながらない例が多い.本研究では,特にFcRnとアミノ酸改変抗体の結合性に着目した研究を実施しており,研究成果は,FcRnのリサイクリング機構解明や,半減期延長に有効な抗体医薬品の分子設計につながる. 平成28年度は,改変抗体とFcRnの親和性の算出方法として,表面プラズモン共鳴法のBiotin capture法と,ELISAを用いた解析を行った.引き続きフローサイトメトリー等を用いたその他の方法による検討を行い,血中半減期と相関の高い測定法を明らかにする.また,Fab部分の影響によりFcRn親和性がadalimumabと比較して低いomalizumabについてFcRn親和性改変抗体6種を作製し,adalimumab改変体とFcRnとの結合性を比較したところ,Fab部分の構造の違いによりFcRn親和性が異なる場合でも,アミノ酸改変の効果に大きな差は認められなかった.Adalimumab改変体を用いてFcの機能(Fcγ受容体結合性)について解析したところ,FcRn親和性の改変が血中半減期以外のFcの機能に影響を及ぼしていることが明らかになった.水素重水素交換/質量分析(HDX/MS)により構造の変化を解析したところ,FcRn親和性を改変することにより,Fc部分に構造が変化している領域が認められた.本解析を進めることにより,FcRn親和性の改変が構造に及ぼす影響が明らかになり,FcRn親和性とFcγ受容体親和性の同時改変等に有用な情報が得られると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,FcRn親和性改変による抗体の血中半減期延長技術を確立する上で重要と考えられる事項の中で,①生体内での血中半減期と相関の高い,改変抗体とFcRnの親和性の算出方法の確立,②Fab部分が改変抗体とFcRnの親和性に及ぼす影響の解明,③FcRnへのアルブミンの結合が,改変抗体とFcRnの親和性,および改変抗体のリサイクリングに及ぼす影響の解明,④FcRn親和性とその他のFc部分の機能を同時に改変するための知見の蓄積,について検討している.本年度は,昨年度に作製した Adalimumab改変体に加え,Fab部分の影響を解析するためのOmalizumab改変体を作製し,各研究を進展させた.①については,SPR及びELISAによる解析を行い,現在フローサイトメーターを用いた解析について準備を進めている.②については,AdalimumabとOmalizumab改変体の比較を行い,Fab部分の構造の違いによりFcRn親和性が異なる場合でも,アミノ酸改変の効果に大きな差は認められないことを示した.③のアルブミンの結合が改変抗体とFcRnの親和性に及ぼす影響については,①で確立した手法を用いて影響を明らかにする予定である.④については,FcRn親和性改変により,Fc部分の構造が変化し,Fcγ受容体との結合性にも影響を及ぼしていることを明らかにした.総じて順調に研究が進行している.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,改変抗体とFcRnの親和性の算出方法として,フローサイトメトリー等を用いた解析を行い,それぞれの方法で得られる結果と血中半減期との相関性について検討する.また,その他の研究の進展具合によるが,Fc以外の構造がFcRn親和性に及ぼす影響について,Omalizumabよりもさらに親和性の低いFc融合蛋白質であるEtanerceptを用いた検討も行う.その他に,アルブミン結合が改変抗体とFcRnの親和性に及ぼす影響に関する検討,FcRn親和性改変が抗体の構造に及ぼす影響に関する水素重水素交換/質量分析(HDX/MS)を引き続き実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りの使用額であるが,アルブミン結合が改変抗体とFcRn親和性に及ぼす影響など,試薬類が比較的高額な研究を最終年度に実施することとしたため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費は主に,①表面プラズモン共鳴法,フローサイトメーター,ELISAによるFc受容体親和性測定用の消耗品,②高次構造解析のためのHDX/MS関連消耗品,の購入に使用する予定である.
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