研究課題/領域番号 |
15K08090
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
宮本 嘉明 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (20449101)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 精神疾患 / プレシナプスタンパク質 |
研究実績の概要 |
我が国では、精神疾患に罹患する患者が急増しているにもかかわらず、多くの精神疾患の病因や病態が未だ不明であるため、有効な治療法の開発が滞っている。そこで、本研究では、全ゲノム関連解析において複数の精神疾患(双極性障害、統合失調症およびうつ病)に関連することが示唆されているプレシナプスタンパク質Piccolo(遺伝子PCLO)に着目して、その中枢神経系における機能的役割を明らかにし、精神疾患の病因・病態メカニズムを解明する。 昨年度は、PCLO miRNAを組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV-miPCLO)ベクターを青年期(8週齢)マウスの前頭前皮質に注入したPiccoloノックダウンマウスを用いて、個体レベルにおけるPiccoloの神経機能を解析した。その結果、このマウスでは、双極性障害の躁状態や統合失調症の陽性症状および認知機能障害に類似の行動薬理学、電気生理学および神経化学的表現型が観察されることを明らかにした。 そこで、今年度は、細胞および分子レベルにおける Piccolo の神経機能を解析するために、上記のマウスを用いて形態学、分子生物学および神経化学的検討を行った。本マウスの前頭前皮質では、神経細胞樹状突起スパインにおける顕著な形態変化は見られなかった。同様に、プレシナプスマーカー・シナプトフィジンやポストシナプスマーカー・PSD-95のタンパク質発現レベルにも変化は見られなかった。一方、プレシナプス活動部位で働くシナプシンのリン酸化レベルやSNAP-25のタンパク質発現レベルは有意に減弱していた。また、本マウスの背側線条体では、脱分極刺激誘発GABA遊離量が減弱していた。 以上のことから、前頭前皮質におけるPiccoloは、シナプスの形成や維持には関与しないが、プレシナプスのエクソサイトーシス機能に関連していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、青年期Piccoloノックダウンマウスを用いて、その細胞および分子レベルにおけるPiccoloの神経機能を解析し、前頭前皮質におけるPiccoloがプレシナプス機能の制御に重要な役割を果たしていることを明らかにした。これは、昨年度の電気生理学および神経化学的検討により得た本マウス前頭前皮質におけるグルタミン酸神経系シナプス可塑性(ペアパルス促進および長期増強)の減弱を支持するものであった。さらに、本マウスの神経化学的解析では、背側線条体におけるGABA神経系の機能低下を明らかにした。これは、昨年度に見出した本マウス背側線条体でのドパミン神経機能の亢進が、皮質グルタミン酸神経系(↓)- 線条体GABA神経系(↓)- 線条体ドパミン神経系(↑)ネットワークの障害によることを示唆した。 また、本年度の研究計画に新たに加えた光遺伝学とin vivo マイクロダイアリシス法を組み合わせた新しい実験手法の開発を伴った皮質-線条体ネットワークメカニズムの解析については、実験手法の条件検討が終了し、野生型マウスにおける基礎的データを得るに至った。 一方、青年期Piccoloノックダウンマウスにおいて観察されなかったうつ病(もしくは双極性障害のうつ状態)や統合失調症の陰性症状に類似した表現型の誘導解析については、マウス前頭前皮質へのAAV-miPCLOベクター注入時期の早期化(幼弱期:4週齢)および青年期からのPCLO発現低下期間の長期化(4週間→32週間)への変更を検討したものの、従来の行動異常に加えて更なる行動表現型が観察されることはなかった。 以上のことから、本年度に予定していた研究計画はほぼ順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に新しく加えた皮質-線条体ネットワークメカニズム解析の研究計画を更に推し進めて行く。つまり、光遺伝学とin vivo マイクロダイアリシス法の複合的実験手法を用いて、マウス前頭前皮質にAAV-miPCLOおよびChR2ベクターを注入したのち、前頭前皮質もしくは背側線条体を光刺激した際の細胞外グルタミン酸、GABAおよびドパミン遊離量の変化を測定することによって、青年期Piccoloノックダウンマウスの前頭前皮質を起点とした神経系ネットワークの障害メカニズムを明らかにする。 また、本年度に成果が得られなかったPiccoloノックダウンマウスにおけるうつ様表現型の誘導解析については、統合失調症の2ヒット仮説に基づいて検討することとする。統合失調症は、遺伝的要因だけではなく環境的要因が加わることにより発症するとの病因仮説があるため、青年期Piccoloノックダウンマウスに穏やかな環境的ストレス(軽度社会的敗北ストレス等)を暴露したのち行動薬理学的検討を行い、より精神疾患への表面的妥当性の高いモデル動物の作製を試みる。 さらに、当初の研究計画に従い、PCLO一塩基多型(SNP)と精神症状との関連性についても分子生物学的検討を行う。研究および医療機関と連携して、精神疾患患者のゲノムcDNAを収集しパイロシーケンス解析を行い、既報のPCLO intron 24におけるSNP rs13438494(日本人の主要アレルは危険因子Cアレル)およびPCLO exon 19におけるSNP rs2522833(アミノ酸変異Ser4814Ala)の各アレルを確認する。そして、そのPCLO SNPアレルと日本人の精神臨床症状との因果関係を明らかにする。また、上記のSNPによるPiccoloの神経機能変化についても、培養細胞レベルにて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に確立した光遺伝学とin vivo マイクロダイアリシス法の複合的実験手法の開発において、両実験機器の接合機器となるシーベル部分の納入が、部品の研究開発のために時間がかかってしまった。そのため、当該実験において使用する予定であった消耗品等の購入を控えることとした。よって、次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、本年度に購入を控えた光遺伝学とin vivo マイクロダイアリシス法を組み合わせた新たな実験手法に必要な消耗品(光ファイバー管付透析プローブ等)を購入する。さらに、国内学会(日本神経精神薬理学会、日本薬理学会年会等)および海外での国際学会(AsCNP 2017、Neuroscience 2017等)において、積極的に研究成果を発表していく予定である。また、国際学会誌への投稿も予定している。
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