申請者はこれまでに、小児・高齢者を対象とする臨床薬物動態研究に取り組んできた。本研究では、先天性心疾患症例の薬物動態変動機構の解明を図るとともに、薬物動態に関する基礎情報を補完するため、in vitroでの基礎実験を行う。3年計画のうち3年目となる平成29年度は、現在先天性心疾患の術後症例の一部において問題となっている蛋白漏出性胃腸症(PLE)時の薬物体内動態を解析した。(研究概要は以下の通り) 血中薬物の多くは血漿蛋白と結合するが、細胞内に移行して薬理効果を示すのは遊離型薬物である。本研究では、PLEによって生じる低蛋白血症がタダラフィルの薬物動態に及ぼす影響を明らかにする目的でPLE患者2例における血漿中非結合型分率(fu)の経日変動を評価した。症例1と症例2の観察期間(測定点)はそれぞれ139日(9点)、27日(8点)であり、TADのfuは3.9~13.0%の範囲で変動した事、およびfuが血漿アルブミン値と軽度相関する事が明らかとなった。また、PLE発症を契機にTADのfuが長期的に上昇する事が示唆された。さらに、in vitro結合アッセイによってアルブミンおよびα1酸性糖蛋白質がTADの結合キャリアであることが確認されたことに加え、血液中のリポタンパク質がTADのキャリアーとしてfu変動に寄与しうることが明らかとなった。本研究は、PLE時における薬物動態変化を明らかにした初めての報告であり、今後ますます増加が予想されるPLE患者における治療最適化において基盤となる基礎的知見を与えるものと考えられる。
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