薬剤性腎障害は医薬品の使用によって引き起こされる有害反応であり、薬剤の中止や治療の変更のほか、腎予後や生命予後にも大きく影響することから、臨床現場における重要な課題の一つとされている。 本研究では、薬剤性腎障害の発現やバイオマーカーの変動に関わる分子機構の解明と共に、保護薬物の探索や臨床応用に関する検討を行った。 分子機構解明のためにブタ近位尿細管由来LLC-PK1細胞を用いて行った検討では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症治療薬バンコマイシン(VCM)が、尿細管上皮細胞にカスパーゼ-3/7依存性のアポトーシスを惹起する際に、ミトコンドリア機能異常や活性酸素種(ROS)の産生増加に加えて、MAPKであるJNKを活性化することが明らかとなり、またJNK活性化はROSに非依存的であることが示された。加えて、VCMによる尿細管上皮細胞アポトーシスには、ミトコンドリア標的抗酸化薬が有効であると共に、cAMPアナログはJNK活性化を抑制して保護効果を示すことが明らかになった。一方、ラットにVCMを連日投与すると、投与開始5日後の腎組織において尿細管の空洞化や刷子縁の欠落が認められたが、尿細管上皮細胞に多く存在するN-acetyl-β-D-glucosaminidase(NAG)の尿中における活性はVCM投与開始1日後から有意に上昇したことから、尿中NAG活性を指標とすることでVCMによる腎障害を早期に検出できる可能性が示された。一方、特異的抗体を用いた蛍光マイクロビーズ法により、腎障害バイオマーカーの新規測定系構築を実施した結果、10項目(KIM-1、MCP-1、IL-18、uPAR、BMP-7、EGF、TNF-R1、TNF-R2、TGF-β1、フィブロネクチン)について、数~数十μLという少量の尿検体や血漿検体にて、短時間での同時評価が可能になった。
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