胃全摘出後の患者は経口投与ではビタミンB12(V.B12)を吸収できず悪性貧血を発症することがある。そのため、V.B12を筋肉内注射により投与し続ける必要があり、患者のQOLが損なわれる可能性がある。本研究では、消化管のパイエル板に存在するmicrofold cell (M細胞)を経由して細菌やウイルスが取り込まれることに着目し、ウイルスと構造が似ているリポソームをV.B12吸収の薬物キャリアとして用いることを目的に検討した。最終年度である本年度はV.B12の生体内への吸収・分布をマウスを用いて評価した。 C57BL/6マウスに1日2回5日間連続で、経口投与した結果、血清ではV.B12水溶液 (V.B12 sol.)投与群に比べてV.B12内封リポソーム (V.B12-lip)投与群のほうが高いV.B12濃度を示した。一方、腸管内容物中においてはV.B12 sol.投与群よりもV.B12-lip投与群のほうが低い濃度であった。すなわち、経口投与したV.B12-lipは消化管のパイエル板M細胞を経由し血中へ移行されたことが示唆された。脾臓中のV.B12濃度はV.B12-lip投与群のほうがわずかに低い傾向が認められた。V.B12-lip投与群において血中濃度が高く、脾臓中のレベルが低かったことより、V.B12-lipは免疫系を回避し血中を長時間滞留している可能性が考えられた。なお、本検討は正常マウスを使用しているため、胃内因子が存在する条件下で試験を実施し、V.B12 sol.投与においても胃内因子と結合することによる吸収が認められる結果となっている。しかしながら、胃全摘出後には胃内因子が欠乏しているためにV.B12 sol.は吸収されない。よって、V.B12 sol.と同等以上の生体内移行が確認されたV.B12-lipは胃全摘出患者の悪性貧血治療薬として有用性が期待された。
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