近年PK/PDアプローチから最大限の効果、副作用の防止、耐性菌の発現阻止を目指し、患者個別に最適化した抗菌薬投与を行うことが重要視されている。しかし、特殊病態時(化膿性髄膜炎、全身性炎症反応症候群(SIRS)、血液濾過透析(HDF)など)の薬物動態は明らかになっておらず、これらの患者に対して最適な投与量設計ができていないのが現状である。 平成30年度は化膿性髄膜炎患者に投与された抗菌薬の血中濃度ならびに髄液中濃度を測定した。髄液中濃度は治療経過が良好な場合、治療経過と共に移行性が低下することが示され、治療期間中は改善が認められたとしても投与量を減量することなく投与すべきことが明らかとなった。さらに、脳室ドレーン留置下ではドレーンからの排出があり、髄液中濃度が低くなるが、ドレーン抜去により上昇することが示された。抗菌薬の中でもリネゾリドは髄液への移行性が高く、ドレーン抜去や治療経過による影響をほとんど受けなかった。また、SIRSの患者において、ダプトマイシンの血中濃度を測定した。ダプトマイシンはクレアチニンクリアランスが30 mL/min未満の場合、2日に1回投与となっているが、休薬日にはダプトマイシンの有効性の指標であるAUC 666 mg*h/Lを超えず、十分な効果が得られないことが示された。腎機能障害患者では可能な範囲で1回量を減量し、毎日投与することが推奨された。研究期間全体を通じて、HDF患者において、メロペネムの最適投与法は1日1回0.5~1.0 g投与(HDF施行日はHDF後に投与)であることも明らかにしている。 本研究より、特殊病態下(HDF、SIRS、化膿性髄膜炎)における最適な投与法を明らかにすることができた。今後、これら患者の予後改善が期待される。
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