癌治療では、抗腫瘍薬や鎮痛薬が効かなくなる耐性現象が大きな問題となっている。本研究では、自ら樹立した薬剤耐性細胞と元の親株(感受性細胞)をマイクロアレイやゲノムシーケンス等の手法で比較検討し、各々の薬剤耐性細胞のみに発現する因子や変異もしくは発現量に顕著な差がある因子を同定し、各因子の薬剤耐性への寄与度を検討するとともに耐性克服の分子標的を探索し、将来の臨床応用への基盤とすることを目的とした。 その一環として、薬剤耐性細胞株と対応する親株(感受性細胞)について全エクソームシーケンスの解析を実施した。変化が認められた遺伝子については、定量的PCR法にて発現量を確認した。変化が確認された遺伝子の中には細胞膜輸送に影響する可能性のある膜脂質に関連する遺伝子がいくつか存在していた。 急性白血病治療において主要な抗腫瘍薬の一つであるイダルビシンは、脂溶性が高く細胞内への取り込みが急速である。自ら樹立した薬剤耐性細胞と元の親株(感受性細胞)では取り込まれたイダルビシンを細胞外へ排出する機構(P糖蛋白質やMRP蛋白質など)には変化がないことより、耐性機序に関与している可能性のある膜脂質関連遺伝子は、細胞内への急速な取り込みを抑制したり、細胞内の薬物動態に影響を与えたりしていることが想定される。そこで、蛍光を発するイダルビシンの細胞内動態をフローサイトメトリー法を用いて、イダルビシン耐性細胞と元の親株(感受性細胞)で比較検討した。イダルビシン耐性細胞では、元の親株(感受性細胞)と比較してイダルビシンの細胞内取り込み特に初期の取り込み相が低下していることが確認された。脂溶性の高い抗腫瘍薬の急速な細胞内取り込みが膜脂質関連遺伝子の発現低下とともに抑制され耐性に寄与していることが示唆された。 今後、膜脂質関連遺伝子の発現操作により細胞内取り込みと耐性が誘導されるかどうか等の検討を計画している。
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