研究課題
小腸や腎臓、肝臓などの上皮細胞では様々な薬物トランスポーターが発現し、薬物体内動態の規定因子として重要な役割を果たしている。これまで、種々薬物トランスポーターの構造・機能解析が精力的に進められ、個々の薬物動態学的意義が明らかにされつつあるが、薬物の組織移行における薬物トランスポーターの関与と、その結果生じる毒性(副作用)発現との関係について系統的に解析した例はほとんど見当たらない。本研究では、薬物の毒性発現組織における薬物トランスポーターの発現を網羅的に解析し、さらに薬物の取り込みと毒性発現の関連について精査することによって、新たな副作用発現機構を解明するとともに、その防御法開発の基盤構築を目的とする。本年度は、腎臓における有機カチオントランスポーターに焦点を当て、検討を進めた。白金系抗がん薬シスプラチンはその腎毒性が臨床上の問題点となるが、その発現は有機カチオントランスポーターを介した腎移行性によって規定されている。また、セロトニン受容体拮抗薬は制吐作用を有し、シスプラチン使用時に併用される。そこで有機カチオントランスポーター (OCT2, MATE1, MATE2-K) を介した有機カチオン輸送に及ぼす、種々セロトニン受容体拮抗薬の影響について検討した。その結果、程度の差はあるものの、セロトニン受容体拮抗薬は有機カチオントランスポーターに対して阻害作用を有することが判明した。従って、セロトニン受容体拮抗薬の併用によってシスプラチンの腎毒性が軽減(腎への取り込み阻害)または増強(腎からの排出阻害)する可能性が考えられた。現在、各トランスポーターに対する阻害定数を算出し、腎臓での有機カチオン輸送に及ぼす影響について詳細に解析を進めている。
3: やや遅れている
以前に所属していた研究室から有機カチオントランスポーターの安定発現細胞を入手していたが、その状態が悪く、しばらく使用することができなかった。そのため、研究課題の実施に少し遅れが生じている。
現在では細胞も安定して維持できており、また、研究室に配属された学生も実験手技を身につけたため、問題なく研究が進むものと考えている。
以前に所属していた研究室から有機カチオントランスポーターの安定発現細胞を入手していたが、その状態が悪く、しばらく使用することができなかった。そのため、研究課題の実施に少し遅れが生じており、研究計画遂行に必要な試薬等の購入を見合わせていたため、次年度使用額が生じている。
平成27年度に予定していた研究計画と28年度に予定の研究計画を可能な限り並行して進める予定であり、必要な器具、試薬等をまとめて購入して使用する。
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Heart Vessels
巻: 31 ページ: 713-721
10.1007/s00380-015-0677-x