研究課題
鏡視下手術時代の今は、人体構造をマクロ的に観察し、ミクロ的に構造の分布と広がりを解析する、メゾ(中間)レベルの解剖学が求められている。このことは、様々なところで求められており、臨床医の求めるメゾレベルに含まれる構造の解析のために、マクロ解剖学的解析と組織学的解析を組み合わせる研究を、これまで進めてきた。本研究では、昨年度に引き続き、以下の7つの課題について解析を進めてきている。1.食道後部に見られる筋膜について。2.Treitz靱帯(十二指腸堤靱帯)の形態と付着について。3.Gerota筋膜の層構造について4.直腸後部のHiatal ligament(裂孔靱帯)の分布について。5.骨盤隔膜筋膜の広がりと本態について。6.いわゆる基靱帯の構造について。7.恥骨尿道靱帯、恥骨膀胱靱帯の構造と広がりについてである。今年度は、食道後部の筋膜の解析(1)、Treitz靱帯の構造の解析(2)、Gerota筋膜の本態について(3)ならびに直腸・肛門管の周囲の構造(4,5,6)についての解析を進めてきた。また、恥骨尿道靱帯、恥骨膀胱靱帯の構造の解析(7)については、現在解析を始めたところである。解析は、精細なマクロ解剖を行い写真にて記録を行った。次に、マクロ解剖で得られた『筋膜』と『靱帯』の位置関係に基づき、適切な組織切片を作製し、線維性結合組織や弾性線維についての解析を行うとともに、平滑筋組織の広がりを免疫組織化学的に明らかにしてきた。また、『筋膜』と『靱帯』の画像診断的可視化を目指し、解剖所見と画像所見の比較を行った。これらの解析結果から、手術所見などで確認される『筋膜』や『靱帯』と呼ばれている構造の組織学的性質とその空間的分布が明らかになりつつある。さらに、この周囲を走る脈管・神経の走行との関係を明らかにするべく、観察、解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
食道の後部の筋膜については、古くから言われてきているが、その本態については十分に明らかにされてこなかった。しかし、これがMorozow靱帯(間膜)と古くからいわれてきたものだということが確認され、さらにそれが左右の壁側胸膜が正中で付着して出来上がったものであることをあきらかにした。現在、これをさらに頭側方向にまで範囲を拡大し、縦隔の区分に対しての一般化される筋膜の存在について明らかにするべく検討を進めている。直腸周囲の構造については、肛門挙筋と直腸との直接付着の形態についての解析を行い、直腸縦走筋に連続する平滑筋構造が、広く直腸周囲の横紋筋と関わりあっていることを明らかにした。この平滑筋がどのように広がっているのかについて、明らかにするべく検討を進めている。女性において、膣の筋層と肛門挙筋との関係についてを明らかにしたいと検討を進めている。画像において、骨盤底の筋の形態についての解析が進んでいなかったが、膵臓周囲の構造については、Treitz靱帯の構造についての検討をおこなってきた。この検討によって、Treitz靱帯がその走行において捻じれ構造をもつこと、そして、それによって、周囲の神経の走行に影響を与えている、つまりこの靱帯があることによって、神経が直接到達することのできない領域があることを明らかにした。これらのことを膵臓外科関係の学会などで報告し、まとめているところである。腎筋膜についても、手術所見の検討、組織学的検索、肉眼解剖学的検索を合わせて、思考実験を繰り返し、モデルの構築をおこなっているところである。これらのの研究は並行して進めており、当初の計画通りに研究が進展している。
今後も、基本的に今年度と同様の研究手法用いる。次年度は、これまでの研究で得られた所見をもとに、手術等での問題・疑問の解決になるように、大学院生らとともに、結果をまとめていくことにしている。内臓にみられる『筋膜』と『靭帯』は、身体の中に多く見られる。これらは、単独で存在するわけではなく、周囲に血管や神経が走る。我々は、広く応用可能な解剖学を目指し、特に対象を限定してということではなく、その周囲構造にも範囲を広げて研究を展開する予定である。さらに、リンパ管に対する抗体染色をもちいることにより、『筋膜』とリンパ系との関係を明らかにする予定である。研究の進展に応じて、画像診断学的検討とのすり合わせも増やしていく予定である。
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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