頭部と前肢の間にある頸は不思議な領域である。それは脊椎動物の進化の過程で長くなってきて、頸の長い動物でも、短い動物でも頭部と前肢を結ぶ二つの筋、僧帽筋群(僧帽筋、胸鎖乳突筋)と鰓下筋群(舌筋群、舌骨下筋群)が走る。また脊椎動物の体は頭部と体幹からなって、それぞれが独特の発生学的文脈にしたがって作られるが、頸部はそれらが混じり合った特徴を示す。例えば頭部の結合組織は頭部神経堤、体幹は中胚葉に由来するのであるが、僧帽筋群、鰓下筋群の筋繊維は体幹の中胚葉である体節に由来を持ちながら、その結合組織は頭部神経堤から作られるのである。この頸部がどうやって長くなったのかを明らかにするため、頸の長い動物であるニワトリで、頸部が作られる様子を調べた。頭部と前肢芽の間にある領域にある側板中胚葉の発生運命を調べたところ、この領域全体から鎖骨が作られ、最も頭側の側板中胚葉は鎖骨の胸骨端に、最も尾側のそれは肩峰端になった。前者の領域に由来する細胞は発生途中で咽頭弓の後縁である囲鰓領域に分布していた。ここは頭部神経堤の分布の後端であり、背側にある体節に由来する鰓下筋群の原基が下顎、舌骨領域へと至る移動経路でもある。さらにこの中胚葉は僧帽筋群の筋繊維の大部分を作ることが分かっている。また囲鰓領域の背側には後頭骨を作る体節が控えている。したがって、二つの筋群が頭部と肩帯(鎖骨)を結び、それらが頭部と体幹の二重性を持つという頸部の特徴はすでに発生期の咽頭弓の後縁に備わっているのである。また、この囲鰓領域は頸の長さに関係なく全ての脊椎動物にあるから、これが様々な動物で頸に同じ形態が現れる要因となっているのである。ニワトリのように頸の長い動物でも前肢が鎖骨を介して鰓につながっている様子は、いわゆる魚の形態と同じであるから、頸は鎖骨(皮骨肩帯)領域を拡大して進化したと考えられる。
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