嗅覚の脳内伝導路である外側嗅索は、新生児期に切断しても自然再生するが、再生線維は髄鞘化されないことが確認されている。これまでの実験で確立したこのラット中枢神経再生モデルを利用し、神経損傷後の自然再生線維の髄鞘化を誘導することを目的として実験を行った。麻酔した生後2日の新生児ラットの片側外側嗅索を、手術用顕微鏡下で鋭利に切断し、その後、外側嗅索が完全に切断されていることを確認するために、逆行性の神経トレーサーであるFB(Fast Blue)を切断部より後方の嗅皮質に注入した(1%,0.1μl)。術後、母ラットの元に戻し、生後5日目から20日目まで毎日1回、アセチル-L-カルニチン(100 mg/kg)を腹腔内に投与した。コントロール群には同量の生理食塩水を投与した。生後30日目に灌流固定し脳を採取した。嗅球から作成した矢状断の凍結切片(50μm厚,150μm間隔)を蛍光顕微鏡で観察し、投射ニューロンである僧帽細胞がFBで標識されている場合は、不完全切断例として実験から除外した。嗅球内にFB陽性の僧帽細胞が観察されなかった外側嗅索の完全切断例において、嗅皮質を含む残りの脳から前額断の凍結切片(50μm厚,300μm間隔)を作成し、抗MBP(Myelin Basic Protein)抗体を用いた免疫染色により外側嗅索内の神経線維の髄鞘を検出し、MBP陽性部位の面積を計測した。さらに、一部の切片から外側嗅索を含む部位を切り出し、作成した超薄切片を電子顕微鏡で観察するとともに、外側嗅索内の有髄線維の数を計測した。カルニチン投与群とコントロール群で比較した結果、カルニチン投与群において、有意にMBP陽性部位の面積および外側嗅索内の有髄線維数が増加していることが確認され、アセチル-L-カルニチンによって外側嗅索内の再生神経線維の髄鞘形成が誘導されることが明らかとなった。
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