腸管閉鎖症は、先天的に腸の一部が閉鎖・狭窄する疾患である。本研究では、胚発生期に腸管閉鎖を示すメダカ突然変異体を用い、その遺伝的要因と、発症のメカニズムを明らかにすることを目的としている。 前年度までに、シート状の内胚葉組織から腸管の管腔構造が完成した直後の発生ステージで、腸管閉鎖が生じる部位の上皮においてにF-actinが異常集積することや、ミオシンIIの阻害剤であるBlebbistatinを用いて腸管閉鎖を抑制できることを明らかにしてきた。本年度は腸管閉鎖の原因を明らかにするために、以下の2点について検討した。 (1)アポトーシスの関与:腸管閉鎖を示す直前の、F-アクチンの異常集積が観察されたステージにおいて、TUNEL法によるアポトーシスの検出を試みた。その結果腸管閉鎖を生じる腸管上皮の部位において、アポトーシスのシグナルは観察されなかった。このことから変異体胚の腸管閉鎖にはアポトーシスは関与していないと結論付けられた。 (2)上皮間葉転換の関与:腸管閉鎖の際にアクチンの細胞内動態が変化していることに加え、基底膜の断片化が観察されていることから、上皮間葉転換の関与について検討した。上皮間葉転換の際に発現が亢進する遺伝子として知られているsnail、matrix metalloproteinaseの発現変化をin situハイブリダイゼーション法を用いて解析した。その結果いずれの遺伝子も顕著な発現上昇は観察されず、野生型胚との間に差は見られなかった。以上のことから変異体胚で観察される腸管閉鎖に、上皮間葉転換は関与していないと結論付けられた。
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