心外膜前駆組織 (proepicardium organ)は、胚心臓の静脈洞に形成され、発生の進行にともない胚心臓をおおい、成人心臓の心外膜や冠状血管になる。近年、心外膜前駆組織は冠状血管の平滑筋細胞・内皮細胞、心臓線維芽細胞、血球に分化するだけでなく、心筋細胞へ分化する可能性も示唆されている。しかしながら、「心外膜前駆組織の発生のしくみ」はほとんど分かっていない。心外膜前駆組織発生の仕組みを明らかにすることは「心臓の形づくり」の解明につながるばかりではなく、将来的な心外膜前駆組織を利用した疾病治療の開発に寄与すると考えている。研究代表者は、中胚葉から心外膜前駆組織への分化がこれまで報告されていたよりも早い発生段階で決定されること、そしてその分化にレチノイン酸が関係している可能性を見出した。本年度は神経胚期以前の中胚葉の分離法と培養法を検討しつつ、分化の仕組みの解明を試みた。中胚葉の分離はプロテアーゼの作用時間と濃度の条件を検討することで可能になった。分離した中胚葉の培養法に関しては、血清やITS(インスリン、トランスフェリン、セレン)の添加について条件検討を行った。その結果、神経胚期の中胚葉の培養は可能になったが、心外膜前駆組織が形成されない領域においても心外膜前駆組織のマーカー分子が誘導される問題が生じた。この結果は培養法のさらなる改善が必要なことを示している。一方、心外膜前駆組織は臓側中胚葉から形成される。しかしながら培養系で壁側中胚葉を培養したところ心外膜前駆組織のマーカー分子が誘導された。この結果は、壁側中胚葉も心外膜前駆組織への分化能を有していることを示している。このことは、中胚葉の心外膜前駆組織への分化決定は壁側中胚葉と臓側中胚葉の分離より早い段階で起こっている可能性を推測させた。
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