当初目標とした研究環境整備(採卵から胚発生まで)は昨年度までに達成できたが、ポリプテルス胚が性成熟するまでの期間は想定以上に時間を要した。体長が最大50cmに達する大型魚類を小規模飼育施設で性成熟させる簡便な策が考案できるのか、また継代・系統化が可能なのかについては、ポリプテルスをモデル動物化させる本課題にとって重要である。そこで1年間の研究期間延長によってこれらを検討した。 受精後2カ月を超えた自家繁殖個体20尾を昨年度より飼養し、これらを個別循環水槽に分離した。胚から幼魚期に関してはゼブラフィッシュ同様の飼養法で問題無いが、幼魚・若魚以降の飼養に関しては、止水・不透明な飼養環境が所属機関での好条件であった。本年度終了までに性成熟が確認できたのは2個体であり、いずれも小型の雄であったことから次世代の採卵には至らなかった。このように胚発生以降の後期成長過程に着目した研究をする場合には今後さらなる飼育設備の検討が必要である。本懸案に関してはアメリカの研究者と本年度8月の小型魚類研究会にて議論を行ったが、同様の大型魚類・ガーの場合は大学施設内の池を用いるといった大規模な環境下での対策を講じていた。一方で環境・生態系へ極力負荷をかけずに実施すべき現代の研究活動において、こうした小規模研究室ベースでの飼養ノウハウの蓄積は、需要・魅力のある特殊な生物種をモデルにした研究を今後可能にしていくものだと考えている。 また胚や成熟個体を用いた研究展開は本年度も継続的に行うことができた。分担研究者・矢野はポリプテルス鰭の薄切標本の作製ならびに骨・結合組織の組織学的解析を行い、国内学会にて成果発表を行った。また研究室内でも外鰓形成、硬組織形成に関する分子解析データを得た。またポリプテルス原産国であるセネガルの研究者を所属機関に招待し、研究情報交換ならびに研究補助期間以降の方向性について議論した。
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