研究課題/領域番号 |
15K08146
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研究機関 | 東北福祉大学 |
研究代表者 |
伊藤 恒敏 東北福祉大学, 健康科学部, 教授 (90004746)
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研究分担者 |
尾形 雅君 東北大学, 医学系研究科, 講師 (50311907)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | IEL / 小腸 / マウス / DNA断片化 / DNA修復 / Granzyme B / Perforin / TNFα |
研究実績の概要 |
腸上皮細胞間リンパ球(IEL)の機能解析を目的として、先に確立したマウスin vivo実験系で解析を行い、次のような報告をしてきた。 ①マウスに抗CD3抗体投与でIELを刺激すると、30分後に小腸上部の絨毛上皮細胞(IEC)にDNA断片化が誘導され、2時間後にIECの剥離を伴う下痢が生じる。②IECのDNA断片化はγδ型IEL型の活性化による。③TNFαの投与でIEC剥離が生じるが、DNA断片化は誘導されず、細胞剥離とDNA断片化の機序は異なる。(Yaguchi, Cell Tissue Res., 2004)。④IEL活性化に伴いIECにDNA断片化が誘導されると、DNA傷害部位へ修復関連分子が動員され、迅速なDNA修復が行われる(Ogata, 2009)。⑤このDNA断片化はGranzymeB(GrB)依存性で、Perforin(Pfn)非依存性である(Ogata, 2013)。⑥γδ型IELは種々の刺激に迅速に反応してGrBを放出してIECにDNA傷害を誘導するが、IEL自身はその後絨毛を離れることなく上皮組織内で死の転帰をたどることが確認され「即時反応性でDisposableの防御細胞」ということを明らかにした(Ogata, 2014) 。⑦IEL活性化に伴うIEL自身のDNA断片化およびDNA修復も確認され、IECとIELでみられる「Pfn非依存性のDNA断片化および修復現象」は、生体での普遍的な現象であることが示唆された(Ogata, 2015)。 αβ型IELとは異なりMHC拘束性を受けないγδ型IELの腸管粘膜免疫システムにおける機能・役割については依然不明な点が多い。本研究課題では、γδ型IELの細胞傷害メカニズム(DNA断片化・IEC剥離)をさらに深く解析しγδ型IELの腸管免疫や生体防御での役割や生物学的意義の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗体刺激されたγδ型IELの脱顆粒に伴いGrBが放出され、隣接するIECにDNA断片化が生じ、その後IECの剥離が生じる。この現象は様々な外来抗原の侵襲に対する腸管免疫において、感染IECの剥離排除は重要な生体防御と考えられる。 先にTNFα投与でIECの剥離が生じ、IEC剥離はTNFαによるものと示唆されたため、IEL活性化に伴うTNFαの血中動態をELISAで解析した。その結果、①TNFα投与でIECが剥離する。②TNFR-KOマウスでは剥離が生じない。そして③IEC剥離直前に血中TNFαが一過性に上昇することが確認され、IEC剥離はTNFαによって誘導されることが明らかとなった。さらにBrdU標識実験では、IEC剥離は絨毛先端側で生じることも確認され、(外来抗原からの侵襲を受け易い)絨毛先端部でのIEC剥離は、生体防御機構の観点からも理にかなった現象である。 そこでTNFα産生細胞とその局在の検証を行った。TNFαの主要な産生細胞としてマクロファージ(Mφ)が知られていることより、脾臓摘出マウスとClophosome処理マウスを作成して脾臓・肝臓Mφの関与を調べたが、いずれもIEL活性化に伴うIEC剥離と血中TNFα上昇が生じ、TNFαは肝・脾などの遠位臓器由来ではないことが確認された。 次にTNFα産生細胞の腸管粘膜局在について免疫染色法で検証した。その結果、パイエル板の旁濾胞域でTNFα免疫反応陽性のMφが検出され、IEL活性化に伴うTNFα分泌応答が腸管粘膜での局所的な免疫応答である可能性が示唆された。さらに腸絨毛先端の粘膜固有層においてもTNFα免疫陽性反応が確認されており(この免疫反応はIEL活性化2時間後の絨毛では検出されなくなる)、現在この免疫陽性細胞の同定を解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進課題としては、①γδ型IELが細胞外に放出したGrBを穿孔分子(Pfn等)なしにγδ型IELの細胞内へ取り込む現象、②細胞穿孔なしにGrBを、細胞内に取り込む際に介在する分子の探索とその機序、の解明を目標に以下の研究を進めていく。 「細胞外に放出されたGrBのγδ型IEL細胞内への取り込みの検出と取り込み機序の解析」 γδ型IELの抗体刺激後、細胞外へ放出されたGrBが、どのようにγδ型IEL細胞自身に取込まれるのかを検証する。GrBによる細胞傷害後でも、断片化DNAが修復される(生きている)ということは、IECおよびγδ型IELでも細胞膜の穿孔(細胞膜の破綻)がないことを意味する。また取り込まれたGrBは直接核内にアクセスするのか。①刺激後のγδ型IEL細胞内に取り込まれたGrBの細胞内(in situ)検出:①-①抗体刺激前・後における、γδ型IEL細胞内のGrB局在を免疫組織学的に検索する。①-②抗体刺激後のγδ型IELの核内におけるGrBの局在を免疫組織学的に検索する。②ex vivoでのγδ型IELによるGrB取り込み(エンドサイトーシス)の解析:②-①Percoll分離したIEL画分をCD103+とγδ型TCR+でGatingしたγδ型IELを用いて、蛍光標識GrBの細胞内取込みをFACSで解析する。②-②エンドサイトーシス阻害剤を用いてGrBの細胞内取り込み機構を解析する。(Dynasore(Dynamin依存性エンドサイトーシス阻害剤)、Wortmannin(Clathrin依存性エンドサイトーシス阻害剤)、PXS25(MPR依存性エンドサイトーシス阻害剤)等の各種阻害剤を用いた、γδ型IELでのGrBの取り込みと細胞傷害現象の検証)
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次年度使用額が生じた理由 |
「GrBの標的(IECおよびIEL)への細胞内移行機序」の検証実験において計画している、IECのIELの単離精製の条件検討に時間がかかり、(IEL:AriaⅡ精製後、弱い抗体刺激で長期間の培養が可能となった。IEC:AriaⅡ精製後の細胞生存が難しく、MACSでの細胞精製を採用)、ex vivo実験系で使用を予定していた経費がかからなかったため。本年度は、同時に遂行している「IEL活性化に伴うIECの剥離(下痢)の発症機序」についての検証を中心に行った。
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次年度使用額の使用計画 |
ex vivoでの解析実験系の確立が完了したため、「細胞外に放出されたGrBのγδ型IEL細胞内への取り込みの検出と取り込み機序の解析」の検証を、次年度(平成29年度)に実施することに計画変更を行った。但し、全体としての研究進捗状況についてはおおむね予定通りに進んでいる。
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