研究実績の概要 |
シナプス伝達効率を動的に制御(シナプス可塑性)する仕組みは、学習記憶のモデルとして盛んに研究され、関連遺伝子やタンパク質の同定とその役割の理解が深まりつつある。一方、シナプス膜上に存在する脂質(膜脂質)と各可塑性関連タンパク質との相互作用やそのシナプス可塑性における機能的役割については殆ど不明である。本研究では、膜脂質の一種ホスファチジルイノシトール(3,4,5)三リン酸(PIP3)と特異的に結合するPhldb2(pleckstrin homology-like domain, family B, member 2)が海馬神経細胞のスパインに局在し、BDNF刺激によりスパイン内に局在するPhldb2の数は増加したが、PIP3の減少(PI3K阻害剤であるLy294002の投与)によりその数が減少したことを観察した。Phldb2はシナプスが形成されるスパインにPIP3依存的に局在し、スパインのAMPAR型(AMPA-R)のシナプス内係留とシナプス後肥厚タンパク質(PSD)-95の細胞内動態に関与することを突き止めた。さらに、Phldb2欠損マウスの海馬CA1シナプスでは、長期抑制(LTD)と長期増強 (LTP)の両方のシナプス可塑性が欠如していることも見出した。これらの知見は、シナプス可塑性における膜脂質‐タンパク質相互作用の重要性を提起し、その分子実体を明らかにした点で重要な発見である。 特に今年度は、昨年度に引き続き、Phldb2はNMDAR-CaMKIIへの関与を検討した。In vitro 系でPhldb2の発現量が活性型CaMKIIにより減少することが観察できた。また、Phldb2欠損マウスの海馬ではNMDAR-CaMKII複合体形成が減少し、シナプス内係留するNMDARの数も減少することが見られた。よって、Phldb2はNMDAR-CaMKII局在調節機構の形成維持に重要であると考えられる。
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