研究課題/領域番号 |
15K08152
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大崎 雄樹 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (00378027)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 核内脂肪滴 / 肝由来細胞 / phosphatidylcholine |
研究実績の概要 |
脂肪滴(Lipid droplet:LD)は中性脂質のコアをリン脂質一重膜が覆うオルガネラである。機能解析が進む細胞質LD (cLD)に対して、肝由来細胞などで多く存在する核内LD (nLD)の意義は未知であり、本計画ではnLDの形成機序と生理的機能の解明を目的とする。H28年度の成果の概要は以下の通りである。 nLD形成促進条件を再検索したところ、脂肪酸とともにER stress誘導刺激などを与えることでnLDと核膜延長構造が過剰に形成された。電子顕微鏡解析により、同培養条件ではnLDの一部は核膜延長構造の内腔側および核膜槽に貯留していた。一方nLD形成抑制条件を検索したところ、リポプロテイン合成に関与する分子Mの機能抑制によりnLD形成が阻害された。これらの結果から、肝由来細胞で特にnLDが多く形成される機序は肝細胞特異的なリポプロテイン合成機構に依存する可能性が示唆された。 肝癌由来培養細胞における蛍光脂質結合プローブによる検索の結果、脂質Dと陰性荷電リン脂質PがnLDに局在していた。新たなnLD局在分子としてPKC novel isoformsを同定した。nLD周囲に局在するphosphatidylcholine (PC)の新規合成経路の律速酵素CCTalphaに関しては、nLDへの局在に必要な分子内ドメインを同定した。CCTalphaのnLDへの局在はLD局在が既知である分子Tにより負に制御されており、CCTalphaのnLD局在頻度とPC合成活性は正に相関した。PC合成に関与する他の酵素群の一部も核膜および核膜延長構造に局在していた。これらの結果から肝癌由来細胞ではnLD表面がCCTalphaの活性化とPC合成に関与する場として機能することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
項目毎の計画進捗状況は以下の通りである。 (A) nLDの形成機序の解明:従来は(1)PML-IIの働きにより核膜成分およびnLDが分裂中も核領域に維持される(2)間期の核質で核膜および核膜延長構造に沿って新規LD形成と既存nLDの成長が起こると仮定していた。ライブイメージング等を用いた解析により、分裂期において減少したnLDは間期において新規に形成されることが明らかとなり、上記(2)は支持された。しかしリポプロテイン合成に関与する分子Mの機能抑制によりnLD形成が阻害されこと、ER stress誘導条件ではLDが核膜延長構造の内腔にも観察されたことは、nLDが肝由来細胞で多く存在する理由を説明する一方で、(3)ER内腔/核膜槽で合成されたLuminal LD (LLD)がトポロジー的に同義である核膜延長構造内腔に移動し、ある時点で核質に露出するという新たなnLD形成の起源説を提示した。 (B) nLDの転写調節・蛋白質修飾の場としての機能の検証: nLDまたはnLD-PML複合体に特異的に結合する蛋白質/ゲノムDNA配列の網羅的検索に関して、主に核由来成分の精製度の向上に技術的に難があり、進捗が遅れている。代替案として、nLD特異的局在ペプチド配列にAPEX標識したコンストラクトを細胞に発現させ、nLD表面分子の複合体の網羅的な同定を進行中である。 (C) nLDのウイルス増殖制御への関与の検証:(B)に連動してHCV-Core、Ad5初期翻訳蛋白質(ウイルス蛋白質群)とLD・PMLとの結合比率に影響を与え得るnLD結合分子の検索が遅れている。代替実験として、nLD周囲に集中することが明らかになった脂質DおよびPの量を、各々の代謝経路関連酵素の発現量操作および薬理的阻害等により変動させた場合の、ウイルス蛋白質群とLD・PMLとの結合頻度変化を検索中である。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は以下の点について進行する。 (A):核膜延長構造、nLD、クロマチンの細胞周期を通じたライブ蛍光イメージングを発展させ、特に分裂期でのnLD減少機序と間期でのnLD新規形成過程を詳細に調べる。さらにPML-IIが各周期で膜構造・nLDの維持に関与するか否かを検討する。一方nLDの起源がLLDである可能性とLDが内腔から核質に露出する仕組みを、連続TEM、FIB-SEM画像再構築により詳細に解析する。リポプロテイン合成能を持つ小腸由来細胞などでもnLD形成の有無を検索する。 (B): APEX標識nLDマーカーを代替手法に用いて、nLD特異的に局在する蛋白質分子、nLD-PML小体に結合するDNA配列の網羅的解析を続行する。他方nLD周囲に集積して機能する可能性が高いCCTalphaについて集中的に解析し、nLD(CCTalphaが局在)と核膜・核膜延長構造(PC合成に関与する他の酵素が局在)の近接領域でのPC合成機構が、肝癌由来細胞および肝由来初代培養細胞の増殖・ER stress応答に重要であることの検証を進める。またPML-IIが核膜およびnLD表面に結合するための標的分子として可能性の高い陰性荷電脂質PのnLD局在量を、蛍光標識脂質結合プローブによるマスキングまたは代謝的調節により変動させた場合の、PML-IIの局在変化とそれに伴うnLD・核膜延長構造量変化を検討する。 (C): nLDに集中する脂質DおよびPの量を代謝的に変動させた場合の、ウイルス蛋白質群とLD・PMLとの結合頻度、ウイルス粒子形成変化を検索する。さらにnLD周囲には特定リン酸化型p53(ウイルス蛋白質群による機能破壊標的分子)が局在するが、nLD局在型PKC isoformsを機能阻害または過剰発現させた場合のp53のリン酸化およびウイルス蛋白質群の局在変化を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の支出予定に沿って無駄の無いように適切に当該年度予算を執行したが、特に物品購入の際の間接税などにより項目毎の支出額に端数が生じ、それらの合計が年度末に残ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度の直接経費に合算し、物品費(生化学的試薬購入費)として使用する。
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