研究実績の概要 |
下垂体ホルモンFSH,LHが精子幹細胞ニッシェに必須であるか明らかにするため移植実験により下垂体ホルモン欠損マウスの精子幹細胞数を調べた。また、下垂体ホルモン欠損マウスの精子幹細胞ニッシェについてもFSH,LHの影響を調べた。 精子幹細胞は生後の精巣の発達と共に増加してくることから、5-10日齢の未成熟期と2か月齢の成熟期の二つの異なったステージの欠損マウスをドナーとして用いて、精子幹細胞移植アッセイを行った。FSHホルモンFshb遺伝子、LHホルモン受容体Lhr遺伝子について調べると、どちらの遺伝子欠損マウスでも野生型と同レベルの精子幹細胞数を保持していることが分かった。FSHは精子幹細胞の自己複製を促進すると考えられていたが、本研究では結果が異なったので、これは大変意外な成果であった。 FSH、LHが精子幹細胞ニッシェの数を制御しているかどうか調べるため、Fshb. Lhr遺伝子欠損マウスが保持する精子幹細胞ニッシェの数を移植実験で調べた。野生型の精巣から採取した精子幹細胞を移植する実験で、どちらの遺伝子欠損マウスでもニッシェの数は変わらなかった。しかし精子幹細胞ニッシェにおける増殖能を継代移植で調べると、Fshb欠損は影響しないがLhr欠損が精子幹細胞の増殖を亢進する意外な結果が示された。 以上の実験により、Lhr欠損により精子幹細胞増殖を促す遺伝子がはたらくと考えられた。そこでLhr欠損マウス精巣を利用して精子幹細胞増殖を促す遺伝子を調べた。マイクロアレイ実験によりトランスクリプトーム解析を行い、Sfrp1, Wnt5a, Dlk1を候補遺伝子として得た。これら候補遺伝子の中から培養精子幹細胞の増殖を亢進させる遺伝子を調べた結果、Wnt5aが精子幹細胞の増殖を促進することを示した。さらに生体内でも、Wnt5aが精子幹細胞増殖亢進を担うことが示された。
|