研究課題/領域番号 |
15K08156
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
大保 和之 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70250751)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 幹細胞 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
平成27年度は、成体精巣からGDNF受容体α鎖陽性/膜型チロシンキナーゼc-Kit陰性精原細胞(精巣幹細胞)、および、Neurogenin3陽性/膜型チロシンキナーゼc-Kit陽性精原細胞(精巣前駆細胞)のヒストン修飾を、クロマチン免疫沈降を用いて解析した。計画では、Super enhancerをマークするヒストン修飾のH3K4me1とH3K27Acと、幹細胞の多能性や分化進行に伴う幹細胞独特の遺伝子発現制御システムに重要なH3K4me3とH3K27me3修飾、さらに我々が、幹細胞から前駆細胞への脱出時に強くゲノムに修飾が入れられることを見いだしたH3K9me2修飾を、ゲノムワイドに調べることを計画した。本年度は、最初に、上記2分画の細胞をセルソーターで分取した。次に、これまで報告のあるES細胞を用い、集まった精巣幹細胞数、前駆細胞数で再現性高い結果が得られるか検証を行った。その結果、セルソーターで分取した細胞数で再現性のある実験が可能であることが予測された。そこで、その結果を受け、実際にH3K4me1, H3K27Ac, H3K4me3, H3K27me3の修飾をゲノムワイドにクロマチン免疫沈降法により解析した。現在、実験データの質、どのような領域にどのような修飾が入っているか、それからどのようなことが予測されるか、他の研究者から公表されているES細胞などのモデル細胞のデータとも比較しながら解析を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に計画したゲノム修飾の多くの解析を終了することができた。この数年次々と少数の細胞で行える方法論が開発されてきた遺伝子発現解析、シトシンメチル化解析の2つの領域と比較すると(論文的には1個の細胞でも可能)、クロマチン免疫沈降実験の領域は、細胞数を減らした報告はあるものの、より正確な結果を得るためには、まだ多くの細胞数を必要とする。慎重な予備実験の結果、今後詳細な解析の結果を待たないと正確なことは言えないが、一部の領域の結果から推測すると、最終的に多くのクロマチン免疫沈降実験で良好な結果が得られたものと考えられる。 唯一未達成だったH3K9me2修飾領域の検索には、今回準備した細胞数では不足であると考えられ、現在、繰り返し上記2つの幹細胞、前駆細胞分画の純化実験を行い、細胞を収集しているところである。クロマチン免疫沈降実験自身は問題なく動いており、かつ、H3K9me2修飾を特異的に認識し、クロマチン免疫沈降法に使用可能な抗H3K9me2抗体も用意に入手可能であるため、細胞が集まり次第、十分実施可能である。
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今後の研究の推進方策 |
精巣の幹細胞が、幹細胞活性を喪失し前駆細胞へと移行する際に、鍵となる転写因子の結合領域、および、DNA、ヒストン両方の修飾の変化の情報を可能な限り統合し、エピジェネティクスの視点から幹細胞から前駆細胞への移行を制御している分子機構を明らかにする。平成27年度に明らかにしたヒストン修飾の情報のなかでも、まず精巣幹細胞から前駆細胞へと移行する際にH3K4me1, H3K27Acのマークが消失し、それに制御されて遺伝子発現が低下する標的遺伝子を探索し明らかにする。この際、同定される領域近傍について、共通したDNAモチーフ配列がないか、上記H3K4me3, H3K27me3修飾の動き、既にデータを取得しているDNAメチル化の変化を重ね合わせて検討し、幹細胞から前駆細胞へと移行する上で、どのような分子機構が存在しているのか統合的に理解する事により幹細胞特性をゲノム修飾から理解する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定したゲノム修飾解析の実験のうちの一つが、集めた材料となる細胞の数が、正確な実験結果を得るためには不十分であると予測され、そのゲノム修飾解析実験を行なわなかったため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に、より多くの細胞を集め、未達成であった実験を実行する予定である。
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