研究課題/領域番号 |
15K08159
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 正裕 東京医科大学, 医学部, 教授 (00232471)
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研究分担者 |
畑山 直之 東京医科大学, 医学部, 助教 (80534792)
曲 寧 東京医科大学, 医学部, 講師 (70527952)
平井 宗一 東京医科大学, 医学部, 准教授 (70516054)
林 省吾 東京医科大学, 医学部, 准教授 (60349496)
倉升 三幸 (北岡三幸) 東京医科大学, 医学部, 助手 (70468643)
永堀 健太 東京医科大学, 医学部, 助手 (50759561)
小川 夕輝 東京医科大学, 医学部, 助手 (20529250)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ラット / 精巣 / 異所性移植 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、精巣のimmune privileged siteの性質を移植によって明らかにするために、簡易的かつ成功率の高い「異所性」精巣移植技術をラットにおいて考案・確立した。これまで報告されてきた「同所性」精巣移植は、その支配血管の細さから移植技術が難しく、手術に時間がかかり、成功率が不安定であった。今回我々が考案した異所性移植と同所性移植を比較し、また異所性(頸部)に移植する際に考えられる問題点について各対照群を用いて比較・検討を行った。異所性精巣移植は、ドナーの精巣を支配血管の起始部である腹大動脈と下大静脈と共に摘出し、大血管の上端を吻合閉鎖し、下端をレシピエントの総頸動脈と外頸静脈に繋ぎ、頸部にて精巣への血流を再開させて行った。異所性精巣移植と同所性精巣移植の手術時間と成功率を比較した結果、異所性移植の手術時間は59.9±7.1minと同所性の約3分の1であった。成功率においては、同所性では71%だったのに対して、異所性では100%であった。異所性へ移植する際、精管閉塞、血流閉塞、温度障害などが懸念されるため、3群(精管を結紮した精管結紮群、支配血管を結紮した虚血群、精巣を腹腔に移動させた停留精巣群)の対照群の精巣と組織学的に比較した。その結果、対照群らで見られるような精子形成障害は異所性移植群の精巣では確認できず、頸部皮下へ移植しても精巣は正常に機能することがわかった。よって、実験移植モデルとして、異所性精巣移植による手術時間短縮と成功率の高さは、実験の効率を向上させると考えられる。またドナー精巣の虚血時間を減らし、レシピエントの侵襲性を減らすことで、実験にかかる余計な要素・影響を省き、より精度の高い実験が可能になると思われる。精管閉塞、血流閉塞、温度障害という考えうる3つの影響を除外したことで、頸部異所性精巣移植の移植モデルとしての有用性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
精巣の特殊な免疫環境を解明するためのこの研究は、段階を経て順調に進んでいる。精巣がどこまで免疫学的に守られているのか?ということを解明するためには、精巣の「移植」は、非常に重要な要素である。これまでの「同所性」の精巣移植は、術者の技術や手術時間・成功率の不安定さなどの影響が大きく、実験の精度が不安定であった。今回、考案した「異所性」の精巣移植は、それらの要素を払拭できる可能性を示唆した。この方法により、一定の精度をもって実験を進めることを可能にし、また効率性を高め、より多くのデータの積み重ねと検証が可能になると考えられる。この移植法を足がかりにして、さらに免疫学的な解析を進めることで、精巣のimmune privileged siteの性質をより詳細に解明していく。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、頸部異所性精巣移植を移植モデルとして、より確立したものにしていくために移植後の長期的な評価を実施する。また、この移植モデルを用いた免疫学的な解析を進めていく予定である。長期的な評価は、移植から30日、60日、90日と経時的にサンプリングし、精子形成、ホルモン分泌などを組織学的、生化学的、機能学的に評価していく。一方で、免疫学的な解析は、異系の精巣を移植し、遺伝的背景の違いによる急性拒絶反応や慢性拒絶反応に対して、移植された精巣内がどのように変化していくか検討していく。さらに、オスの精巣をメスに移植し、メスの免疫系が精巣へどのような影響を及ぼすかを検討する予定である。これらの実験により、免疫学的な解析・評価を進めることで、精巣のimmune privileged siteの性質やメカニズムの一端を解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に実施した精巣移植は、異所性・同所性移植ともに手術の成功率が高く、予定していたラットの使用匹数よりも少なく実施できたため、実験動物代および維持費(食餌含)が抑えられ、また、生化学的解析、分子生物学的解析に使用する試薬の購入が予定より少なく済んだため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は頸部異所性精巣移植後の長期的な評価を実施するため、未使用額はその経費に充てることとしたい。研究経費として平成28年度は総額1,360千円を計上し、いずれも消耗品で、その内訳としては麻酔剤を含む移植手術用の試薬50千円、包埋剤50千円、染色試薬50千円、薬品(各種抗体、Western Blotting 法関連試薬、Real time RT-PCR 法関連試薬、Real time RT-PCR 法プライマー)を460千円計上した。実験動物(ラット)代として維持費(食餌含)を加えて650千円計上し、昨年度に引き続き、金額に誤差が生じないように努める。
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