研究課題/領域番号 |
15K08161
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
相沢 信 日本大学, 医学部, 教授 (30202443)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 造血微小環境 / 骨髄ストローマ細胞 / 三次元培養 / 老化促進モデルマウス / 造血因子 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
造血現象は造血幹細胞という「種」が、造血微小環境という「畑」において育つ過程を示すものである。本研究は畑である造血微小環境の構成要素としてのストローマ細胞に注目し、これら細胞が実際にどの様に造血幹細胞の増殖・分化に関わりを持って機能しているかをin vivo標本を用いて解析し、さらに三次元培養法を用いたin vitroの面からも検証することにより造血制御機構を解明することを目的としている。今年度はストローマ細胞に機能障害を有する老化促進モデルマウス(senescence-accelerated mice:SAM)と正常マウスとの比較検討により、外的ストレス(LPS投与)時のストローマ細胞機能の経時的変動を観察し、造血細胞に対する制御機能の解析を行った。SAMは正常マウスに比較して、ストローマ細胞の造血組織内分布は量的異常として有意な差は認めず、定常状態では貧血等血液学的異常も認めない。しかしストローマ細胞の造血因子産生能は定常時より低レベル状態であり、LPS刺激時など外的ストレスが加わった際には、もともとの機能低下に加えて刺激に対する反応性も低下していることにより、造血維持に必要な造血因子産生が不可となり貧血が生じ、遷延し、生体の恒常性が破綻しやすい状況となっていることが明らかとなった。この現象は三次元培養を用いたin vitroの実験でも再現された。興味深いことに三次元培養を用いた実験で、造血幹細胞はストローマ細胞により細胞周期の制御を受けている結果が得られた。SAMにおいてもこの制御機構は確認されたが、外的ストレスの際には制御が破綻し、恒久的に造血現象が維持されるために必要な造血幹細胞の細胞周期バランスに混乱が生じていることが観察された。これら結果よりストローマ細胞は個体のおかれた環境に対応しながら恒常性を維持するために機能していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した実験計画通りに進行しており、遅滞、変更等は現時点では特にない。平成28年度はin vivoおよびin vitroでの造血微小環境の役割についてさらに検討を重ねてきたが、造血微小環境が造血幹細胞の細胞周期を制御しながら造血現象をコントロールしている事実が明らかとなってきている。さらに外部刺激によるストレス下においては、造血幹細胞を保護し、個体としての恒常性を維持するためのシステムが存在することを見出し、その詳細を検討中である。平成27年、28年度研究よりストローマ細胞の解析のためのin vivoおよびin vitro実験の基礎的実験成果が得られており、平成29年度実験に向けて順調に研究は進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度研究実施計画に沿って以下の研究を行う。 1)移植実験を用いたストローマ細胞の造血支持機能の検討 SAMへ正常マウス由来ストローマ細胞を移植し、造血状態の変動を検討する。SAMのストローマ細胞の造血支持機能に障害があれば、正常のストローマ細胞の移植により造血能の回復が起こることが予想されることより、ストローマ細胞移植の実行性、有用性について評価を行う。この実験により「正しい造血微小環境」構築、さらに新しい観点からの人工骨髄構築の可能性が評価できると考える。 2)三次元培養法を用いたストローマ細胞機能の評価 平成27-28年度研究で確立した造血系三次元培養法を用いて、正常、SAMマウスのストローマ細胞機能を比較評価する。この研究では、正常、SAM由来骨髄ストローマ細胞をそれぞれ三次元培養し、その造血幹細胞増殖、分化支持機能を造血幹細胞コロニー形成法、フローサイトメトリーにて経時的に評価する。さらに培養中のストローマ細胞を選択的に回収し、サイトカイン産生機能などを遺伝子発現あるいはタンパク定量測定を行うことにより客観的に評価し、障害の具体的解析を行う。さらに平成28年度研究で得られた成果を基に、ストローマ細胞が有する細胞周期を制御する因子について詳細を明らかとする。
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