研究課題/領域番号 |
15K08168
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
仁田 亮 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 上級研究員 (40345038)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | CRMP2 / 微小管 / 微小管ダイナミクス / 軸索誘導 / X線小角散乱 / X線結晶解析 / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、微小管結合タンパク質CRMP2の微小管ダイナミクス制御の分子機構を解明し、さらにその制御機構によって神経細胞軸索伸長がどのように誘導されるのかについて、原子レベルから細胞、線虫個体レベルに至る多階層構造・機能解析法を用いて明らかにすることを目的とする。これに関して以下の進捗があり、論文改訂中である。 (1)生化学的実験、蛍光顕微鏡(in vitroとCOS7細胞)で、CRMP2が微小管の重合促進能を有することを示した。(2)cryo電子顕微鏡によりCRMP2が軸索特有のGTP型微小管の形態を誘導すること、さらに全反射蛍光顕微鏡を用いてCRMP2が微小管の先端部分に集積することを証明した。(3)生化学的実験により、CRMP2はtubulinと複合体を形成することを通じて微小管の重合端にtubulinを付加する役割を持つことを示した。(4)X線結晶構造解析およびX線小角散乱法を用いてCRMP2-tubulin複合体の原子構造を解明した。(5)CRMP2-tubulin複合体の立体構造をもとに、その結合部位のアミノ酸点変異を導入したところ、この変異体は、in vitroで微小管伸長を遅延し、また軸索型微小管を作れなくなった。細胞レベルでも微小管伸長が遅延して細胞寿命が短縮し、さらに、線虫神経系では軸索に運ばれるべき物質が樹状突起に誤輸送される現象が観察された。 これらの結果からCRMP2は、軸索突起の先端で微小管重合端周辺に局在してtubulinと結合し、軸索特有のGTP型微小管を効率良く重合させることを通じて、軸索に「GTP型微小管」という道しるべを作りながら効率良く軸索誘導を促進することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文査読者の指示のもと、論文の改訂を行いながら、平成28年の研究計画を遂行した。 (1)CRMP2-tubulin複合体の結合部位への点変異導入による構造モデルの検証実験に関して:平成27度は、線虫およびニワトリ後根神経節細胞を用いた検証実験を行った。平成28年度は、生化学的にゲル濾過クロマトグラフィーおよび多角度光散乱法を組み合わせた複合体形成確認および分子量測定、全反射顕微鏡を用いたin vitroの微小管伸長実験、COS7細胞内の微小管伸長実験を行った。これにより、野生型CRMP2はtubulinとモル比1:1で複合体を形成し、in vitroでもCOS7細胞内でも微小管伸長を促進するのに対し、変異型CRMP2では複合体形成が阻害され、微小管伸長効果もキャンセルされることが明らかとなった。 (2)CRMP2誘導GTP型微小管の相関電子顕微鏡解析に関して:本実験は、CRMP2が微小管の先端に局在することを明らかにするために計画したものであるが、CRMP2の微小管への結合は一時的であるため、電子顕微鏡による解析が困難であることがわかった。そこで、全反射蛍光顕微鏡を用いた解析へと変更し、CRMP2は微小管の重合を促進するときに、微小管の先端部分に集積することを証明した。 以上、当初の計画とは実験方法を変更する必要があったが、平成28年度の研究目標を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画はほぼ計画通りに遂行することができ、現在、論文の改訂作業中であり、平成29度中に論文掲載の見込みである。 本課題では、非リン酸化型CRMP2が神経細胞の軸索誘導、伸長に重要な役割を果たしていることを示した。一方でCRMP2は、セマフォリンシグナルの下流でリン酸化を受けて軸索の退縮に関わること、また過度のリン酸化は神経変性疾患の発症にもつながることが報告されている。今後は、CRMP2がリン酸化によりどのように構造変化を起こし、それによって微小管との相互作用がどのように変化するのかに焦点を移し、これまで同様、原子レベルの構造解析から神経細胞や線虫での発現型の変化まで、統合的な機能・構造解析を行う。この研究は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの新規治療法開拓のシーズになると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
クライオ電子顕微鏡解析の試料調整目的に微量高速冷却遠心機を購入予定であったが、クライオ電子顕微鏡解析に代えて全反射蛍光顕微鏡を使用した解析に切り替えたので、昨年度の遠心機購入を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、クライオ電子顕微鏡による高分解能構造解析を行う予定であり、微量高速冷却遠心機や電顕関連消耗品による支出に加え、オープンアクセス誌への論文掲載による支出も見込んでいる。
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