研究実績の概要 |
本研究課題は、微小管結合タンパク質CRMP2の微小管ダイナミクス制御の分子機構を解明し、神経細胞軸索伸長の誘導・制御機構を明らかにする事を目的とする。これに関して、以下の進捗があり、2本の論文にまとめて報告した。
1) Niwa et al., Sci. Rep. 2017. 野生型CRMP2が、軸索特有の形態を持つ「軸索型微小管」の重合を促す事により、効率良く軸索伸長を誘導し、神経細胞極性形成に大きく寄与する事を、多階層構造・機能解析法を用いて明らかにした。以下、詳細を記す。 生化学的実験、全反射蛍光顕微鏡により野生型CRMP2が微小管の先端部分に集積して、微小管重合促進能を有する事を示し、cryo電子顕微鏡によりCRMP2が軸索特有の形態を持つ微小管を誘導する事を示した。さらに生化学的にCRMP2が微小管の構成要素Tubulinと複合体を形成する事を通じて、微小管の重合端にTubulinを負荷する役割を持つ事を示し、X線小角散乱法および結晶解析法によりCRMP2-Tubulin複合体の原子構造を解明した。最後に、CRMP2の結合面のアミノ酸点変異により、これらのCRMP2の機能が全てキャンセルされることを証明した。
2) Sumi et al., Cell Struct. Funct. 2018. CRMP2は、CDK5およびGSK3βによりC末端部位のリン酸化を受けると、成長円錐の崩壊といった軸索反発を誘導することが知られており、またその過度なリン酸化はアルツハイマー病の発症にも関連する。本論文では、CRMP2のリン酸化によって微小管との結合が阻害され、上記の重合促進効果が見られない事を生化学的に示した。さらにリン酸化CRMP2の原子構造を解明し、CRMP2のリン酸化が微小管との結合の静電的反発を引き起こすことによる、軸索誘導から反発へとシグナルを切り替えることを示した。
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