研究課題/領域番号 |
15K08173
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
難波 寿明 新潟大学, 脳研究所, 助教 (90332650)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経栄養因子 / GABA / 発火特性 / γオシレーション / 統合失調症 / 動物モデル |
研究実績の概要 |
上皮成長因子(EGF)やニューレグリン(NRG)は、それぞれGABA系の発達に対して拮抗する作用を持つ。これらを新生仔期に投与したマウスは、両者とも成熟に至り統合失調症様の行動異常が出現し、疾患モデル動物となることが知られる。その他多くのモデル動物ではGABA伝達系の異常が成体動物で見出されているが、当該動物モデルに関しては新生仔期における発達作用への影響が解析されているのみであり、行動異常が出現する成熟期でのGABA機能異常に着目した研究はなされてこなかった。本計画では、生後発達期から青年期を経て成熟に至るまでの大脳新皮質高頻度発火型GABA神経の機能成熟に対するEGFやNRGの作用を検討するものである。 これまでの計画実施により、青年期EGF投与マウスのGABA機能に関して、スライス実験やチャネル蛋白のウェスタンブロットを行い、高頻度発火型GABA神経の発火特性の異常やそれを調節する電位依存性カリウムチャネルKv3.1の発現が低下することが見出された。また神経化学的評価として、GABA神経が特異的に保有するパルブアルブミンの発現性についても低下を認めることができた。これらのことは、新生仔期でのEGF投与がGABA機能成熟に対して遅延性の影響があることを示している。 さらにin vivoでGABA機能を評価する実験系として脳波の計測を開始し、静止状態と聴覚誘発性の応答に関してGABA機能が関与するとされるγ帯域のオシレーションに着目してモデル動物で異常が生ずる可能性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
EGF投与モデルマウスの前頭前皮質スライス標本を用いた、高頻度発火型GABA神経を対象とした電気生理学的計測やGABA機能に関わる生化学的評価に関しては、青年期までの解析が進行している。しかしながら当初計画で予定していた10週齢以降の成体での解析は実施されていない。この点に関しては、下記に示すin vivo GABA機能評価から、成体動物での機能異常が見出された時点で、次年度において速やかに計画が推進されるべき点である。また当初計画ではニューレグリン投与マウスの解析も、計画初年度より開始する計画であったが実施されておらず、計画の進行が遅延しているといえる。 GABA機能のin vivoでの評価系として、覚醒静止状態における脳波計測が本年度より新たに実施されてきている。この計画は、連携研究に関わるフリームービング下での脳活動記録に関して多くの助言を得ることで進められ、そのため実験系の確立などの点でより速やかに進行することができたといえる。まだいくらかの条件検討の必要性が残っているが、計画は順調に進行しているといえる。その一方で当初計画では、初年度に行動機能に及ぼすGABA機能の影響評価を先行して実施する予定であった。この計画はまだ着手されていないため、上記脳波計測実験との組み合わせで計画が推進されるべきものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き脳波計測を行うことにより、新生仔期でのEGF/NRG投与が成熟動物においてGABA系の異常を引き起こすことを明らかにする。また計画初年度に実施されていない成熟GABA神経の高頻度発火特性に関するスライスレベルでの電気生理学的評価を進めることで細胞レベルでの裏づけを取る。 モデルマウスのGABA機能成熟の異常が見出された際には、因子過剰発現トランスジェニックマウスやGABA神経細胞特異的EGF受容体欠損コンディショナルマウスを利用することで、内在性上皮成長因子シグナルの影響をin vivoあるいはスライスレベルで検討する。 GABA機能障害の行動機能に対する影響を評価するにあったては、当初計画に示されている迷路学習を用いた空間作業記憶課題あるいは知覚機能などを用いた課題とするかといった点を考慮し計画を推進させる必要がある。本年度に確立された脳波記録により適した課題を選択し、行動とGABA機能異常との関連性の評価を試みる必要がある。また、課題実施に当たっては必要に応じ繰越された予算を利用して機器を購入する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度繰越額が生じた理由として、本年度に実施した脳波計測実験系を確立させるにあたって、本課題と並行し連携研究を進めることによりin vivo覚醒下での脳活動計測に関わる機器や解析ソフトなどが充実してきたことが挙げられる。 一方で、本年度には行動に伴うGABA機能評価がなされておらず、見込まれていた機器の購入のための予算は使用されなかったといえる。また、本年度に実施されなかった計画として、ニューレグリン投与マウスの解析があげられ、このモデル作成にあたっては高価なニューレグリンを随時購入する必要がある。本年度は、このモデル動物が作成されておらず繰越額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
成体脳スライス標本からの高頻度発火型GABA神経の生理学的解析を実施するにあたり、スライスの保持のための実験系の設備を整える必要がある。 また行動機能に対するGABA機能障害の影響評価は、当初計画に示されている迷路学習を用いた作業記憶課題あるいは知覚機能を用いた課題とするかといった点で、本年度確立されてきた脳波計測により適したものを選択し、必要に応じた装置を整える。
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