研究課題
ニューレグリン(NRG)と上皮成長因子(EGF)は、大脳皮質GABA作動性介在神経のシナプス機能や表現型の発達に対して拮抗する作用を持ち、NRGは促進的、EGFは遅延的に働く。これらの因子を新生仔期に投与したマウスは、両者とも成熟に至り統合失調症様の行動異常が出現し疾患モデル動物となる。統合失調症などの発達障害が伴う精神疾患モデルの多くで、GABA機能の異常が認められる。しかしながら当該モデル動物において、行動異常が著明となる成熟段階でのGABA機能に着目した研究はそれほどなされていない。期間全体の実績として、成熟EGFモデルのin vivoにおけるGABA機能を評価するため、覚醒静止時と聴覚誘発性の脳波を前頭前皮質より計測した。その結果、GABA機能が関与するγ帯域(30-80Hz)での平均振幅や位相の一貫性が、モデル動物で低下することが見出された。その一方で静止時自発性の脳波活動には違いを認めることができなかった。この成果は、生後発達期のGABA機能発達への影響とともに、2017年度に論文報告した。また前頭前皮質の組織学的解析から、内側領域でGABA神経が特異的に保有するカルシウム結合蛋白の発現性の低下も見出され、2017年度に学会報告した。また、NRG投与モデルにおいても同様の蛋白発現の低下が認められた。最終年度にはGABA神経の高頻度発火特性の検討として、青年期前後のEGFモデルを用いてスライスパッチクランプ解析を実施した。その結果、発達段階や皮質領域に依存した高頻度発火機能の低下を認めることができた。さらに生化学的解析により、電位依存性カリウムチャネル(Kv3.1)の発現低下が伴うことも判明した。こうして、新生仔期における因子シグナルのかく乱は、発達期のみならず成熟時の皮質GABA機能にも障害を引き起こすことが明らかとなった。
すべて 2017
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Journal of Neurochemistry
巻: 142 (6) ページ: 886-900
10.1111/jnc.14097.