炎症抑制における電位依存性プロトンチャネルの役割を解明するために、前年度に引き続き、好中球の走化性に着目して実験を行った。前年度までに、電位依存性プロトンチャネルHv1/VSOPが活性酸素の産生量の制御を介して、ERKシグナルを抑制する可能性を示唆する結果を得ていた。今年度は、この可能性を検証するために、活性酸素の産生を阻害する薬剤DPIを用いて、fMLF刺激に応答したERKのリン酸化レベルおよび走化性を検証した。電位依存性プロトンチャネル機能が欠失した好中球では、ERKのリン酸化レベルが野生型よりも増加するが、DPI処理すると、そのレベルは野生型と同程度にまで減少した。すなわち、電位依存性プロトンチャネル機能が欠失した好中球における活性酸素の増加がERKのリン酸化を促進していることが明らかになった。つづいて、走化性における活性酸素の効果を検証した。電位依存性プロトンチャネル機能が欠失した好中球は、低濃度のfMLFに対する走化性応答が亢進するが、DPIで活性酸素の産生を阻害すると、走化性の亢進が抑制された。すなわち、電位依存性プロトンチャネル機能が欠失した好中球における活性酸素の産生量の増加が走化性を亢進させていることが明らかになった。これらの結果をまとめると、Hv1/VSOPは、(1) fMLF刺激に依存した活性酸素の産生を抑制する機能を持つ。(2) 活性酸素の産生量を抑制する機能は、ERKシグナルの抑制に必要であり、結果として走化性を抑制する。このHv1/VSOPによる好中球の走化性を負に制御する機能は、過度の炎症を抑制するための重要な機能と考えられる。
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