研究課題
平成28年度では、Cdk5rap1によるミトコンドリアtRNAのチオメチル化修飾の生理機能について、Cdk5rap1欠損マウスを用いて解析した。Cdk5rap1欠損マウスは、野生型マウスと同様に成長し、身長と体重も野生型マウスと全く差が見られなかった。Cdk5rap1欠損マウスの骨格筋や心筋からミトコンドリアを単離し、ウェスタンブロット法によりミトコンドリアのタンパク量を測定した。その結果、野生型マウス由来のミトコンドリアと比べてCdk5rap1欠損マウス由来のミトコンドリアでは、ミトコンドリアDNA由来のタンパク質が顕著に低下し、ミトコンドリアでのタンパク翻訳がCdk5rap1欠損マウスで障害されていることが示された。ミトコンドリアDNA由来のタンパク質はすべて呼吸鎖複合体に取り込まれ、好気呼吸における電子伝達に必要である。そこで、骨格筋および心筋における呼吸鎖複合体の形成をBlue Native PAGEで検討したところ、Cdk5rap1欠損マウスでは呼吸鎖複合体の形成も障害されていた。また、それぞれの呼吸鎖複合体の活性を生化学的に測定したところ、複合体I及び複合体IVの活性が顕著に低下していた。さらに、ミトコンドリアの酸素呼吸能を検討するために、ミトコンドリアを単離し酸素消費量を直接フラックスアナライザーで測定した。その結果、野生型マウスと比べてCdk5rap1欠損マウスの骨格筋及び心筋由来のミトコンドリアでは酸素消費量が有意に低下した。これらのことから、Cdk5rap1によるミトコンドリアtRNAのチオメチル化修飾がミトコンドリアでのタンパク質翻訳を制御することで、ミトコンドリアのエネルギー代謝に重要であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
Cdk5rap1欠損マウスを用いたin vivo解析が順調に進み、ミトコンドリアtRNAのチオメチル化修飾欠損によるミトコンドリア障害の詳細な分子機構が明らかになったため、おおむね順調に進展していると判断した。
今後はCdk5rap1欠損マウスの生理機能を中心に検討する予定です。具体的には、トレッドミルによる筋機能の評価やエコーによる心筋機能の検討を予定している。ミトコンドリアtRNAの修飾異常はミトコンドリア病の発症と関連する可能性があるので、ミトコンドリア病患者の検体を用いてチオメチル化修飾を検討する予定である。
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