研究課題/領域番号 |
15K08184
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
久野 みゆき 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (00145773)
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研究分担者 |
酒井 啓 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (90382192)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生体膜 / チャネル / トランスポータ / 能動輸送 / プロトン |
研究実績の概要 |
1、前年度に引き続きacid-inducible H+ influx pathwayの電気特性の解析を行った。特徴的な内向き整流性は、電流電圧曲線を微分して得られるG (コンダクタンス)-V 曲線からより詳細に検討した。細胞内pH (pHi) 6.5において、-80 mVと0 mVのコンダクタンス比(G-80/G0)は細胞外pH(pHo) 4.5で>3、pHo 3.0では~1.5と減少した。一方、pHoが一定(4.5)の場合、pHiが6.5から4.5へと低下するにつれてG-80/G0は減少した。これらの結果から、強い酸性領域では整流性が内外のpHに依存することが明らかになった。比較のためH+ uncoupler試薬(FCCP)によるH+電流を記録した。FCCP電流はpHo 7.3で生じ、膜のpH勾配 が 0の場合には整流性は見られなかった。また内向き整流性のH+透過性が報告されているNa-K ATPaseのインヒビター(ウアバイン)はacid-inducible H+ influxに影響を与えなかった。 2、細胞外無機リン酸(Pi)濃度が上昇すると、破骨細胞の電位依存性H+チャネル活性および活性酸素産生が促進されることを証明した。acid-inducible H+ influxに対するPiの効果は予備実験中であるが、酸の除去でH+チャネルが急速に強く活性化されることから、H+ influxと活性酸素産生に関連がある可能性が示唆された。細胞外Ca濃度は10 mMまでは影響がなかった。 3、FITC-conjugated zymosan 粒子を取り込ませて形成されたファゴゾーム で発生するpH spikeの頻度は高K刺激で変化しなかったが、プロテインキナーゼCを活性化するホルボールエステル (PMA)を添加すると増加傾向が見られた。これらの結果の一部は論文や学会・研究会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
方法論の改良によって測定・解析の精度が向上した。また、新しい試みから今後の展開に繋がる多くのヒントが得られた。 ①acid-inducible H+ influxは、強酸(methanesulfonate)-強塩基(tetramethylammonium)溶液を用いることで、より強い酸性領域(pHo ~3)で安定した記録が行えるようになった。また、G-V 曲線の導入によって内向き整流性の定量的検討の精度が上がり、整流性の電位依存度を広いpH領域で解析する方法が確立した。 ②Ouabainに抑制効果がないことから、現在不明の分子実体の候補からNa-K ATPaseを除外した。更に、透過機構解明の有用な手がかりとなることを期待し、H+ uncoupler試薬 (FCCP)によるwhole-cell電流の精査に着手した。 ③FITC-zymosanを取り込んだphagosomeのpH spike現象を、これまでより蛍光透過率の高いglass-bottom dishで再確認した。Phagosome pH, pH spikeの頻度や大きさなどがHigh KやPMAによって影響を受けるかどうかを調べ、定量的判定の問題点、注意点などを検討した。また、zymosanよりサイズの大きいIgG感作赤血球が破骨細胞に取り込まれることを確認し、phagosome膜の電流を直接記録する条件を検討した。成功すれば、phagosome膜に細胞膜と同様なH+ leak電流が存在するかどうかという極めて重要な問題の証明となる。難易度は高いが挑戦する価値がある。 ④破骨細胞のH+環境を変える内在性物質としてPiが特定された。またPiが活性酸素産生を増強することが証明され、acid-inducible H+ influxの生理的・病理的意義を考える上での手がかりが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたり、これまでに得られたヒントに基づいて実験を追加し、破骨細胞の酸性環境におけるH+ leak機構とその生理学的・病理学的意義について仮説を提唱したい。具体的な実験計画は以下である。 ①acid-inducible H+ influxの特性について。H+ uncoupler試薬 (FCCP)によるH+電流と比較検討する。acid-inducible H+ influxが見られないCOS7細胞で、FCCP電流を破骨細胞と同条件で記録し、整流性の相違を定量的に検討する。またミトコンドリア膜に報告されているH+ uncoupler蛋白(UCP)の薬理学的特性(nucleotide感受性など)と比較する。 ②FITC-conjugated zymosanの取り込みによるphagolysosomeのpH-spikeについて。pH spikeがphagosome膜のH+ leakによるのか、細胞膜への開口によるのかを調べる。Spike時のphagosome pH > pHo あるいはphagosome pH = pHiであれば、前者の可能性がある。弱酸、弱塩基を利用した細胞内外のpH環境の変動やexocytosisの抑制あるいは促進の影響を調べる。また、IgG感作赤血球を用い、whole-phagosome clampによるphagosome膜のH+ leak電流の直接測定を試みる。 ③リン酸(Pi)および活性酸素との関連について。破骨細胞の晒される酸性環境では同時にPi濃度が上昇する。acid-inducible H+ influx に対する高濃度 (~20 mM)Piの効果、およびPiによって産生が促進される活性酸素との関連を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度内に入荷が間に合わない試薬や消耗品(FITC-conjugated zymosan, グルタルアルデヒドで固定したヒトIgG感作羊赤血球、glass-bottom dishなど)があった。一般に4月初旬は次年度の研究費が使えない。その支払いのため今年度分を残す必要があった。また、緊急入院のため予定していた学会に参加できなくなり、その旅費が使われなかった。28年度の実験計画の一部は次年度にも継続して行う見通しとなったため、一部の基金を繰り越し次年度に充当するのが適当と判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
主にphagosomeのH+-leakに関して、28年度に引き続き行う実験の費用として使用する。破骨細胞をglass-bottom dish上に培養し、FITC-conjugated zymosanの取り込みによるphagolysosomeのpH、pH spikeの性質や発生条件を検討する。また、ヒトIgG感作羊赤血球を貪食させて形成されるphagosomeをターゲットとしてwhole-phagosome clampからH+-leak電流の測定を試みる。
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