研究課題/領域番号 |
15K08195
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
岡田 清孝 近畿大学, 医学部, 准教授 (20185432)
|
研究分担者 |
河尾 直之 近畿大学, 医学部, 講師 (70388510)
梶 博史 近畿大学, 医学部, 教授 (90346255)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 骨損傷 / 骨髄幹細胞 / SDF-1 / 線溶系 / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、線溶系因子遺伝子欠損(KO)マウスと糖尿病病態マウスの骨損傷モデルを用いて、骨修復過程での骨髄幹細胞の分化誘導機構に対する線溶系因子の役割と糖尿病の影響を解明する目的で行った。 1. 骨修復過程の骨髄幹細胞の分化誘導に対する線溶系因子の解析:線溶系因子(プラスミノーゲン:Plg)のKOマウスとその対照(WT)マウスの骨損傷モデルを作成した。骨損傷マウスから骨髄細胞を採取し、FACS解析により造血幹細胞(HSCs)を解析した。その結果、WTマウスでは、損傷2日目に骨損傷部で非損傷部に比べ、HSCsが有意に低下したが、PlgKOマウスではその低下が抑制された。 2. 骨修復過程における線溶系因子とSDF-1発現の解析:PlgWTおよびPlgKOマウスの骨損傷2日目における損傷部位でのSDF-1発現について、定量PCR法によるmRNAと免疫染色法におけるタンパク質を検討した。PlgWTマウスにおける骨損傷2日目の損傷部位でのSDF-1発現は、mRNAおよびタンパク質とも有意に増加した。これに対し、PlgKOマウスでは、骨損傷によるSDF-1発現増加がPlgWTマウスより抑制された。 3. 骨修復過程の骨髄幹細胞の分化誘導に対する糖尿病病態の解析: WTマウスに対してストレプトゾトシン(STZ)投与により糖尿病病態を誘導し、そのマウスに骨損傷モデルを作成した。骨損傷マウスの骨髄細胞のFACS解析によりHSCsを解析した。その結果、STZ投与マウスでは、損傷2日目に骨損傷部および非損傷部ともにSTZ非投与マウスに比べHSCsが有意に低下した。 これらの結果から、骨損傷後の修復過程で誘導される骨髄造血幹細胞数変化に線溶系因子のPlgの関与し、さらに、そのPlgはSDF-1発現に関わることを示唆した。また、マウスにおける糖尿病病態は骨髄幹細胞の異常を引き起こすことを示唆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、マウス骨損傷モデルにおける骨修復過程での骨髄幹細胞の挙動に対する線溶系因子の関与を解析した。その結果、線溶系因子の主因子であるプラスミノーゲン(Plg)の欠損は、骨損傷により誘導される骨髄造血幹細胞数変化を抑制することを見出した。そこで、研究計画を少し変更し、そのPlgの骨髄造血幹細胞に関与する機構解明を先行させた。その結果、骨損傷により誘導される骨髄造血幹細胞数変化に対して、PlgとSDF-1発現が連動していることを見出した。また、該当年度計画していた骨修復過程における骨髄幹細胞の挙動に対する糖尿病病態の影響についても検討した。その結果、マウスにおける糖尿病病態は骨髄幹細胞の異常を引き起こすことを示唆した。また、該当年度計画予定していた線溶活性調節による骨軟骨再生促進効果の解析に対する実験条件設定は、次年度に行うことに変更した。研究実績の概要のように、一部計画変更があったが、ほぼ計画通り進み、予測されうる結果が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、平成28年度一部計画変更も含めて、当初予定していた計画に従って進める。まず、線溶系因子遺伝子欠損(KO)マウスの骨損傷モデルを用いて、骨損傷で誘導される骨髄幹細胞変化に対する線溶系因子とSDF-1発現の連動機構を解明する。また、糖尿病病態で誘導される骨髄幹細胞異常における骨修復過程に対する線溶系因子の解析を行う。さらに、線溶活性促進作用物質を用いて、骨修復・再生促進を目指す新たな再生医療への可能性を模索する。 1. 骨損傷で誘導される骨髄幹細胞変化に対する線溶系因子とSDF-1発現の連動機構の解明:線溶系因子KOマウスの骨損傷後の骨髄細胞を分取し、骨芽細胞への分化誘導培地で培養する。培養細胞のSDF-1および増殖因子等の遺伝子発現とタンパク質発現を解析する。この解析結果より、線溶系因子とSDF-1発現の連動機構を解明する。 2. 糖尿病病態で誘導される骨髄幹細胞異常における骨修復過程に対する線溶系因子の解析:線溶系因子KOマウスに対して糖尿病病態を誘導し、そのマウスの骨損傷モデルを作成する。骨損傷マウスの骨髄細胞についてFACS法により骨髄幹細胞の挙動を解析し、骨修復と糖尿病による骨髄幹細胞異常に対する線溶系因子の関与を明らかにする。また、骨損傷後のマウスの定量CT解析から骨軟骨再生能に対する糖尿病病態の影響を解析する。 3. 線溶活性調節による骨軟骨再生促進効果の解析:骨損傷マウスに徐放剤に取り込ませた線溶活性促進剤(新規合成ペプチド)または線溶阻害剤(トラネキサム酸)を投与し、骨髄幹細胞の挙動をFACSで解析する。さらに、骨損傷部の骨軟骨再生過程を定量CT解析、組織切片のHE染色像やSDF-1/CXCR4の発現などで解析する。 これらの結果から、線溶活性促進作用を有する新規合成ペプチドによる骨軟骨再生促進を目指す新たな再生医療への可能性が展開できるであろう。
|