研究課題/領域番号 |
15K08199
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
鈴木 喜郎 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 助教 (40348503)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表皮ケラチノサイト / パッチクランプ / Piezo1 / 機械刺激受容 |
研究実績の概要 |
平成28年度は表皮ケラチノサイトPiezo1の役割をin vivoおよびin vitroにおいて解析することを計画した。まずCre/loxPシステムによる表皮特異的Piezo1KOマウスの作成を目指した。Piezo1-loxPマウス凍結精子をUC Davisから購入し、国内に輸送の後、生理研・遺伝子改変動物作製室において個体化を行った。また表皮特異的Creマウスを共同研究先より供与していただき、4月末に搬入予定である。今後、それらを掛け合わせることによってPiezo1の表皮における役割を明らかにしたい。 一方、マウス表皮ケラチノサイトPiezo1活性の測定とtight junction機能との関係を明らかにする目的で新規in vitro膜電流記録系を確立した。従来の一次培養法では表皮ケラチノサイトの基底層、有棘層、顆粒層それぞれの細胞を区別して膜電流を解析することは難しかったが、本法ではtight junctionが存在する顆粒層の表層から2層目の細胞と、最表層の細胞を同時に単離した後、マーカー遺伝子の発現の有無によってそれらを区別することができる。実際に本法を用いて単離した細胞においてパッチクランプ法を適用し、初めて表皮ケラチノサイトの最表層の細胞から膜電流記録を取ることに成功した。角化層の形成に重要であると報告されているTRPV3の顕著な活性が認められた一方で、tight junction機能に重要であると報告されているTRPV4の活性が消失していた。以上のことから、表層から2層目の細胞はtight junction機能を担い、最表層の細胞は角化層の形成に重要な役割を担っていることが改めて示唆された。今後、それぞれの細胞から機械刺激後の膜電流応答を記録し、上記Piezo1 cKOマウス由来ケラチノサイトの結果と比較することによってPiezo1の役割を明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Piezo1-loxPマウスおよびCreマウスのMTA手続き、輸送、ライン立ち上げ、およびパッチクランプ法の適用の所で時間がかかったが、ケラチノサイト膜電流記録において顕著な進展があり今後の研究の発展が期待できるため、おおむね順調であると考えられる。既にモデル動物も確立されており細胞からの電流記録もできているので、平成29年度はこれらを継続することによって表皮ケラチノサイトの膜電流とその分子実体の解明、さらにtight junction機能との関係を明らかにするという本研究の目的を達成できると考えられる。Piezo1の表皮ケラチノサイトにおける局在についても、共同研究によってTgマウスを解析予定であるため、Piezo1発現シグナル解析の困難さも克服できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き表皮Piezo1の解析を継続し、その役割を解明する。また最表層におけるTRPV4活性消失の意味やその分子メカニズムを解明することによって、表皮ケラチノサイトにおける上皮機能維持と角化シグナルのスイッチング機構を明らかにしたい。
本法によって表皮ケラチノサイト最表層および2層目の細胞の内在性膜電流が明らかになるとともに、細胞への機械刺激、温度、pH、化学物質応答など、その他の物理的もしくは化学的変化に対する応答の分子メカニズムの詳細も今後明らかになることが考えられる。さらに本法を適用することによって、歯ぐきなどの異なる組織由来のケラチノサイトや、爬虫類などの異なる種の表皮ケラチノサイトにおける膜電流記録も可能になると考えられることから、ケラチノサイトの多様性の背景となっているしくみが解明されることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度内にCre-loxPシステムによるKOマウス作製の目途がついたため、計画していたウイルスベクター作製を見送った結果、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、主にKOマウスの病態解析および表皮ケラチノサイトの電気生理学的解析をさらに進めるため、マウス系統維持費、モニタリング費用、炎症の有無を調べるためのリアルタイムPCR費用および組織染色費用、一次培養関連費用(培地、酵素、その他消耗品費)を計上しているが、計画よりも一次培養関連費用がかかることが予想されるため、上記次年度使用額は培養関連費として計上する。
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