研究実績の概要 |
肥満は各種生活習慣病のリスクを高めることから、その発症・抑制経路を明らかにすることは重要である。申請者らは、細胞内Ca2+シグナル調節に関わるCa2+センサーNCS-1の全身欠損(KO)マウスが顕著な肥満を発症することを見出した。本研究では、NCS1 KOマウスの肥満の原因を、個体・細胞・分子レベルで探ることにより、細胞内Ca2+シグナル調節による新規の代謝制御機構の詳細を明らかにすることを目的とした。これまでの研究で、1)代謝ケージを用いた個体レベルでの解析により、摂食、運動量は変わらないが、エネルギー代謝(酸素消費量及び二酸化炭素排出量)がKOマウスで顕著に低下していることがわかった。2)また、KOマウスにおけるエネルギー代謝低下の原因をミトコンドリア機能を評価することにより、細胞レベルで測定した。その結果、野生型(WT)に比べてKOマウス細胞では、ミトコンドリア呼吸の主要な指標(基礎呼吸、ATP産生、プロトンリーク、最大呼吸、予備呼吸能)全てが低下していることがわかった。しかし、それぞれの容量比はほぼ同じであったことから、ミトコンドリア機能というよりは、ミトコンドリア量が低下していると考えられた。すなわち、KOマウスではミトコンドリアの生合成が何らかの原因により低下することにより、エネルギー代謝が低下し、肥満に落ちいったと考えられる。そこで今回、分子レベルで何が生じているか解析するため、WTおよびKOマウスにおける褐色脂肪組織、白色脂肪組織及び肝臓を用いてメタボローム解析を行った。その結果、KOマウスでは褐色脂肪組織においてATPなどのエネルギー代謝に関わる因子が低下しており、一方、白色脂肪組織においてAcCOA, PalCoA, Tryglycerideなどの肥満蓄積に寄与する因子が増加しており、これらの両方の要因で顕著な肥満に落ちいっていることが明らかとなった。
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