本研究の目的は、エストロジェンの心血管系(心拍数、血圧)の調節におけるオキシトシン(OT)およびビタミンD(VD)の役割を明らかにすることである。 マウス心房筋由来培養細胞であるHL-1細胞において、VDレセプター(VDR)の発現を抑制すると、80%の細胞にCaトランジエントの異常が観察された。DNAアレイ解析によりVDRをノックダウンしたHL-1細胞において発現している遺伝子の変化について調べた結果、actinin 2、PDZ and LIM domain protein 3、PLAGL1、cardiac myosin-binding protein CのmRNA発現が減少すること、そして、これらの遺伝子の発現をHL-1細胞で抑制するとCaトランジエントの異常が起こることが明らかになった。このことは、VDによる心機能の調節にこれらの遺伝子が関わっていることを示唆している。 ラットの性周期中の血圧は、エストロジェンが増加する発情前期に低下し、発情期と比べて有意に低いことが明らかになった。大動脈のOTレセプター(OTR)のmRNA発現が発情前期に増加することから、エストロジェンがOT作用を介して血圧を調節している可能性が示唆された。 さらに、卵巣摘出した雌ラット右心房のVDRのmRNA発現が、エストロジェン投与により抑制された。性周期中の子宮VDRの発現は、発情後期に比べて、発情休止期、発情前期は有意に減少し、発情期に増加することから、エストロジェンはVDR発現に対して抑制的に働く因子であることが示唆された。 以上のことから、エストロジェンは、OT作用に対しては促進的に、VD作用に対しては抑制的に働くことが示された。このことは、エストロジェンの心血管作用において、オキシトシン作用を介するメカニズムの存在に対して、VD作用とは相互作用を有し、補完的に働いている可能性が示唆された。
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