前年度までの研究成果で、オキシトシンをラット脳内の特定部位に投与すると、走行運動が誘発されるという知見が得られていた。この効果はオキシトシンを視床下部服内即核の腹外側部に投与したときに最も強くなった。これはこの部位にエストロゲン受容体が多く発現していること、エストロゲンがオキシトシン受容体の発現を促進することを併せて考えると、理にかなった結果であると考えられる。 一方、バソプレシンはオキシトシンと同じく下垂体後葉ホルモンで構造も類似している。そして様々な行動発現に関与していることが報告されている。昨年度の結果では、視床下部腹内側核へのバソプレシンの投与により有意な走行運動の誘発は観察されなかった。そこでバソプレシンの投与部位について詳細に組織学的検討を行うために、視床下部腹内側核を背内側部、中央部、腹外側部に分け、投与部位と走行運動発現との関連を再検討した。するとバソプレシンを視床下部腹内側核の背内側部、腹外側部に投与した場合、走行運動の変化は認められなかったが、中央部に投与した動物では統計学的な有意差は得られなかったが、走行運動の増加が認められた。 オキシトシンとバソプレシンは構造が類似しているので、互いの受容体に親和性を持っている。そのためバソプレシンがオキシトシン受容体を介して効果を発揮した可能性が考えられる。本研究で得られた結果は統計学的な有意差が認められなかったので限定的な考察しか出来ないが、効果の得られた投与部位がオキシトシンは視床下部腹内側核の腹外側部、バソプレシンが中央部であったことを考えると、それぞれの作用機序が異なる可能性が考えられる。 バソプレシンは神経伝達物質として概日リズムの発現など、様々な行動発現に関与していることが知られている。本研究の知見より、この概日リズムの発現にバソプレシンー視床下部腹内側核の神経経路が関与している可能性が考えられる。
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